「闇は光に」

ハイパー進化の時、俺はそう叫ぶ。
自分のデジヴァイスの中にいる「闇の闘士」に輝ニへの助力を呼びかける言葉であり、
・・・俺の望みでもある言葉。



「輝一?」
「・・・あ、ごめん、ぼーっとしてた」
心配そうな弟に取り繕おうとそれなりに必死な俺の背後で、やや失礼なツッコミが入る。

「輝一はワリといつもぼーっとしてるよな。」


・・・拓也。その言葉に棘というか毒というか、そーゆーものを感じるのは俺の心が汚れているからか?

「輝ニのことばーっか見すぎというか考えすぎなんだよな。もーちょっと足元気をつけた方がいいぞ」
「・・・足元の件は俺も同感だな・・・」
「・・・気がついたら足元がないよーな輝ニには言われたくない。」

後半はともかく前半については正直痛い所を突かれたとしか言いようがなく、やはりというか何と言うか、勘に触る存在だ。神原拓也。

元の世界では誰も近づけていなかった輝ニがこの世界で「仲間」を持っている事実は、実は俺には辛かった。中でも最も衝突したらしいこの拓也には何だかんだといってかなり気を許している。・・・というか、無遠慮にずかずか踏み入るのを苦笑して許している・・・という感じに見える。

その事実を確認するたびに、俺の心に闇が差す。
だが拓也が憎いとか殺したいとか、そういう積極的な衝動は起きない。
ただ、ただ寒くて。
輝ニに触れてその温もりで温まりたいのに手を伸ばすことができない。
他の人では代わりにならないのに。
そして真っ暗闇に取り残される感覚を味わう。

俺は独りだと。
父に「捨てられた」母の「重荷」だと。
漠然と感じていた記憶がよみがえる・・・。

「輝一!」
輝ニの声がした、と思うと同時に、俺の意識は闇に閉ざされた。



「・・・具合が悪いなら悪いと、何で言ってくれなかった!」
「・・・ごめん、輝ニ・・・」

自覚がないあたりが大ボケなのだが、どうも体調のバランスが取れていないらしい。熱っぽいとかそういうこともないのだが、よくよく考えるとどうも気分が下降気味なのは確かだ。この世界に「風邪」というものはないが、敢えて言うならその症状といえそうだ。

「ボコモンが言うには軽度のウィルス感染症状だそうだ・・・だが無理をすると生体が壊れるとか言っていたぞ。・・・」

そう言って黙り込む。ああ、全く、この弟は。

「輝ニ、そこで自分を責めないでくれるかなあ」

最初に怒鳴っちゃった手前もあって俺の「風邪」に気がつかなかった自分を責めてるんだろうけど、俺の落ち度でもあるこの現象のせいで輝ニのそんな表情をさせるのは極力避けたい。・・・見るのはスキなんだが・・・。
でも、声をかけることで変わっていく表情の方がやっぱりスキだ。
驚いて目を見開いて、次いで泣きそうな顔になって、最後に微笑う。そうはいっても傍目には細かい変化だからきっと見逃す人も多いだろう。それでいい、と思う。

涙こそ流してないけど、それを拭うように頬に触れてみる。バンダナから少し落ちた髪が一房、甲に触れる。

「・・・俺は輝ニが心配してくれてることで風邪になってラッキーって思ってるんだから。」
「・・・なっ・・・バカかお前!」
「バカは余計・・・ところで輝ニ。」

「どうして『兄さん』って呼んでくれないんだ?一度はあんなに大きな声で呼んでくれたのに。」

・・・どうしても解らないことだったから熱の勢いで聞いてみたのだが・・・輝ニの反応からするとどうも聞いてはいけないことを聞いたようだ。大げさにいえば「恐怖」めいた感情すら伺わせる輝ニの表情は、今まで見た中で最も痛々しいものだった。
だが、これは、俺にとっても死活問題なのだ。

「名前で呼ばれるの・・・嫌なのか?」
「嫌じゃないけど・・・それじゃ「友達」みたいでね。」

もっとも「友達」という名前の他人で俺のことを「輝一」なんて呼ぶヤツはいない。 皆姓名の「木村」と呼ぶ。もっともこれはそんなに珍しいことではなく、寧ろ下の名前を呼ぶ方がクラスメートでも少数派だ。これもまた、拓也に対して嫉妬を覚える要因の一つ。・・・まあ彼に限らないのだが・・・俺の学校が特殊だったんだろうか・・・。

「輝一」では、駄目だ。「輝一」は「拓也」に勝てない。
あいつの方が先に輝ニの中に踏み込んだから。輝ニは多分、こういった順番にはこだわってしまうタイプだ。
そして離れればまた「他人」に戻ってしまう。
住む所も姓名も違う人間は、家族じゃない。同じ顔をしていても、気のせいとか他人の空似で済まそうと思えばできなくもない。
そして俺はまた独りになる・・・。

「・・・こういち・・・?」
だからそれじゃ駄目なんだって。

「・・・おい?」
何なんだ?

「・・・輝一!兄さん!」
「うわ!///」

はっと目を見開くと心配そうな輝ニのドアップ。二重の意味で心臓に悪い!

「・・・また・・・もう目を覚まさないのかとおもったぞ・・・。」
「・・・そか・・・また俺寝込んだのか・・・」

・・・何となくわかってきた。俺が不安になるとダイレクトにそれが身体に反映してるようだ。ウィルスとやらの影響でそうなったのだろうか。だとしても、心が身体にこんなに直接影響与えるなんてちょっと信じられない。まあここは何でもありなデジタルワールドだからな、ということで思考を止めた。・・・あまりこの先は考えたくない。

「さっきの話・・・里美さんも・・・似たようなことを言った。その呼び方は他人のお姉さんのようだって。愚痴じゃなくて、冗談交じりな口調だったけど。」
お姉さんってトシじゃないけど。そう言って何とか笑おうとしたという。輝ニの継母は。

・・・何となくその表情が想像できる。その表情を見た輝ニが何を思ったかも。何をしようとしたのかも。

共感と安堵と嫉妬と苛立ちがごちゃ混ぜになる。何に対しての苛立ちなのかは解らない。何に安堵したのかはわかりたくない。ただ「急がなければ」と感じた。

「輝ニ。」
「・・・」
「俺は輝ニの『兄』でいたい。ずっと兄弟でいたいんだ。だから「兄さん」って呼んでくれた方が、俺は嬉しい。」
「・・・・・・」
「呼ばなくても兄弟は兄弟だ、なんて頼むから言わないでくれ。どんなに顔が同じだって血が繋がってたって、一緒に暮らさなきゃほとんど意味がない。どこで何をしてるかもわからない。考えていることだってわからない。あんな距離はもう、俺は嫌なんだ。」

・・・言ってることが支離滅裂だ。でも止まらない。どこかに穴でも開いたかのように、ココの所俺を苛んだ不安が堰を切ったようにあふれだす。
ずっと「欲しかった」弟。
でもその弟は、俺を兄と認めているだろうか。
おなじモノから分かたれた同じモノだと感じてくれているだろうか。
俺が想うほどに、俺を想ってくれるだろうか。
どれ一つとっても自信はない。自分の出現が唐突すぎて輝ニが馴染む余裕もないことくらい、嫌というほどわかっている。情けない、と思いながらも縋る様な気持ちで輝ニを問い詰める余裕のない自分がいっそ滑稽で泣けてくる。

「・・・輝ニ・・・」

しばらく、無言の空間が広がったが、その静寂を破ったのは輝ニだった。

「・・・不公平だ。」
「・・・は?」
「弟は兄をよぶのに「兄さん」とか色々呼び名があるのに、兄が弟を呼ぶ呼び名はない。まったくもって不公平だ・・・」

・・・・・・・・・
ここはツッコミを入れるべきなんだろうか・・・。
・・・俺は結構深刻だったんだけど・・・。・・・そういう問題なのか、輝ニ・・・?

「・・・兄さん。」

多少視線を泳がせてはいたが、最後には俺の目を真っ直ぐ見てそう呼んだ。
少しだけ緊張というか照れというか、力みみたいなものが見える。




「一つだけ聞きたいんだ。俺は里美さんを「母さん」と呼んでいいんだろうか。」




・・・成る程、そこで引っかかっていたのか。・・・いい子だなあ・・・。




「・・・輝ニはそう呼んであげたいんだろう?」
「・・・ああ。」
「ならかまわないと思う。俺の母さんは死ぬまで「輝ニの母さん」でもあるけど、「里美さん」と同じような「輝ニの母さん」にはもうなれないと思うから。俺の母さんは母さんで、里美さんも母さんで、それでいいんじゃないか?」
「いいのかな」
「いいの。お兄ちゃんを信じなさい。」
「・・・・・・」



盛大な溜息は聞こえたが、それはまあ、通過儀礼のようなもので。
すぐに微かだけど、一瞬とはいえ完全にリラックスした輝ニの笑顔が向けられた。
多分俺も似たような表情をしてるんだろう。「里美さん」が少し羨ましい気もしないでもないがおかげで「兄」として君臨できそうなので差し引きゼロ。いや、何か楽しい気分になったから寧ろ借りがあるかもしれない。





「闇は光に」

叫ぶとき、俺は願う。

光が朧にならないように俺の闇が輝ニに力を与えるように。
・・・俺の影響が輝ニに届くように。

そんな光が見える限り、俺はもう独りじゃない。

一冊目の拓輝本で、次回配本予告に描いた兄のカットがそれなりに気に入ってカラーにしていたイラストを展示しようとして、コメント代わりに小話をつけようと思ったら、ものの見事に小話の域を脱しました。一人称小説は書きやすいのですが、無駄にダラ長くなりがちなので困ったもんだ。つーか思いもかけず「セカンド『兄さん』物語」になったのが笑えるのか笑えないのか。ああそうさ!俺は「輝一」より「兄さん」って呼んで欲しいんだよ!兄弟以上の関係になっても「兄さん」と叫んで欲し(げし)。

や、まあそれはともかく。でも実際「兄さん」の呼び名に戻すには、輝一からお願いするしかないような気がする。

双子本「keios」とネタ的にダブっていますが、本が怖い系の闇兄なのに対してこちらは不安系の闇兄。アニメで軌道修正。でも不安系も進化すれば恐怖系になると信じて疑っていないあたり、私の闇兄への愛は歪んでいます(笑)

いずれ輝ニの内面描写の独白も書いてみたいです。



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