春休みももう半分が過ぎた。

そういえば今日からもう4月だな、と桜を見ながら輝二がぼーっと考えていると、隣で寝っ転がってた輝一がむくりと起き上がった。 小学生の花見が片や縁側の老人のごとくぼーっと佇み、方や寝っ転がってぼーっとしてる、というのはある意味問題があるような気もするが、これが楽だししみじみ幸せなのだからいいだろうと思う。拓也たちと楽しくやるのも刺激があっていいが、こうした本来の自分のやり方がやはり自然な気がする。
輝一がどこまで「付き合ってくれてる」のかは謎だが、隣にいてくれるだけで何だか嬉しい。

だから起き上がった輝一の言葉は精神を凍らせるのには十分だった。

「俺、輝二のこと大嫌い」


・4月1日・


何を言われたのかと思った。

デジタルワールドの一件以来、以前ほどには人との接触を拒まなくなった輝二は何とか友達付き合いというものができるようになっていた。 性質的に問題があったわけでもなく、また良くも悪くもバカ正直なので「いけすかないがあいつは嘘はつかない、いい加減じゃない」といった級友の最低限の信頼は勝ち得ていた、らしい。クラスの中心になるような派手さとは無縁な不器用で朴訥な付き合い方だがそこがウケている側面もあり、結果最近は「寂しい」とか「孤独」というものにはそこまで縁がなくなってきている。

だけどデジタルワールドで得た「仲間」のような特別な「級友」はまだいない。

そして、その中でも思いがけず出会えた兄は、「他にはいない特別」。境遇から考えると信じられないくらいに簡単に「好き」と言っては甘えてくる。

輝二からするともうちょっと躊躇してもいいなんじゃないかと突っ込みたくなるほどだ。嫌な訳では決してないが、何か間違っているような気がして馴染めない・・・と本気でそう思っていた。その筈なのに。

言われた言葉を信じたくなかった。

兄の顔を凝視したまま動けない。言葉を何か発したいのに喉に何かが絡んだかのように何も言えない。 疎まれることには慣れていた筈なのに、「慣れてる筈じゃないか」と自分に言い切ることすらできない。 何か動かないとどうしようもないのに、本当に頭が真っ白。どちらかというと、そんな自分の状態に面食らっていたのかもしれない。

どれだけの時間が流れたのか全く解らない中、輝一の方がその沈黙を破った。

「・・・あのさ・・・輝二、今日何月何日だ?」
「・・・・・・・・・4月1日・・・って・・・」

ぷつ。と音がしたのは輝二の気のせいだったろうか。

「ああああああああ!?じゃあ!じゃあ今の!今の嘘か!???」
「当たり前じゃないか!」
口調こそ憤慨調だが輝一の顔は笑っている。目の前の弟は見事なまでに真っ赤になって余裕などカケラもない。ある意味純粋に可笑しいのだが(ヒデェ)それ以上に。

(・・・こーして崩した方が可愛いよな(笑))

意識してない無表情をポーカーフェイスというかどうかは疑問があるが、とにかく輝二は感情が表情に出ない。怒りの感情だけは何故か拓也に関する限り解放されているのだが、他の感情表現はやたらと微妙だ。その微妙さを見るのも好きなのだがたまにはこうして崩してみたいという悪戯心が沸き上がるのだった。そしてそれは割とこの兄弟らしいのからしくないのかサッパリ解らない凸凹兄弟の一つのいつもの一方的なじゃれあいと化していた(輝二には迷惑 話だが)。・・・が、今回は・・・「いつもの」とは勝手が違った。



「輝一!嘘でも!言っていいことと悪いことがあるだろう!」
「・・・?い、いや・・・エイプリールフールは一回だけ嘘をついていい日なんだからいいも悪いも・・・」
「悪い!大体その嘘をついていい根拠は何なんだ!?俺は理由のない行動は大嫌いだ!」
「や、まあ確かに起源なんか知らないけど・・・あの・・・結局は好きって意味なんだけど・・・///」
「そんなことはどうでもいい!」
「・・・は!?」
「嘘をつくなと言っている!」
「って輝二、だから今日は!」



支離滅裂。ヒステリー。どちらにせよ、普段のこの弟とは縁遠い単語である。それが今、目の前にある。

普段なら意味さえ汲み取ればそこで収まるはずなのに一向に止まらない。これには輝一も面くらった。自分の「好き」という意思表示がこれほど通じないというのはいささかショックですらある。逆に言えばそれほど輝二にはあの「嘘」が堪えたということになるのだが。

「・・・」

はたと気がついて改めて目の前の弟を凝視する。真っ赤になって眉を吊り上げて睨みつけながら肩を震わせて仁王立ち。誰もが『怒り狂って手が付けられない状態』と判断するだろう。そして本人も、そう信じているだろう。

「・・・輝二・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・もしかして、泣いてる?」

そう言えば意外そうな反応を示すかと思いきや、意外に落ち着いた反応が返ってきた。

「・・・泣いてない」
「涙が出てなかったら泣いてない、とは限らない。ことに輝二はね。」



そう、輝二は泣かない。
そして、輝一も泣かない。だから解る。



憑き物が落ちたように静かになった輝二の頭だけ抱き寄せて自分の体にくっつけると 反応は静かなままだったが、輝二が落ち着いていくのは何故かよく判った。

「ごめん、輝二」
「・・・謝らなくていい。俺が勝手に荒れただけだから輝一は悪くない。寧ろ謝らないといけないのは俺の方で・・・」
「違うよ。俺は輝二が泣いてて嬉しいから謝るんだ。・・・だってそれだけ輝二は俺に甘えてるってことだろ?」
「・・・・・・・・・」


そうかもしれない。
1年前のあのときまで、「泣く」ことなんか忘れていた。
でも「あの兄」が「本当に」いて、それが「消えようとしている」と解ったとき、何かが爆発したような気がする。気がつかないうちに預けていた心の一部が悲鳴を上げたような。
あのときもそうで、今もそう。


「にーさん」

輝二は何故か輝一に対する呼び名を時々変える。「兄」と呼ぶときはどうやら甘えている部類に入るようだ。

「・・・あの『嘘』は『本当』ならすぐに言え。でも『嘘』なら二度と言うな」
「・・・りょーかい」

頭をなでてやりながら、どうやら泣き顔が自分の特権らしいと輝一は結論つける。
笑顔は他の人に振りまいてもいい。自分の独占欲と引き換えに笑えない生活など弟に強いるつもりは毛頭ない。喧嘩してぶつかるのは今のところ拓也の特権だが、それは何とかこっちも手に入れられそうである。
輝二には悪いが、本当に嬉しかった。

「泣き顔が見たかったらこんな風なんじゃなくて、もっと楽しい泣かせ方があるもんね。」
多分通じないだろうな、と思ってそんなことを呟いた、途端。



それまで大人しく腕の中に納まってた輝二はものすごい勢いで輝一を突き飛ばして後方の桜の木に激突するほどに後ずさった。



「な・・・な・・・な・・・!」
口をぱくぱくさせて真っ赤な顔。しかしこれは素人が見たってわかる。怒ってはいない。無論泣いてもいない。見たままの感情である。
が、おそらく輝一も負けず劣らず素っ頓狂な顔をしている。

「何言ってんだッ!?//////」
「輝二!?意味解るの!?」


しまった!と口をふさいでも後の祭りである。
次の瞬間には今度は輝一が輝二に突進して輝二ごと桜に激突した。


「輝二ッv」
「だあっ!懐くなっ!お前なんか大嫌いだっ!!!!!!!」
「うん、解ってるv俺もそう言ったもんねv」



・・・ああ、言葉が通じない。

体いっぱい甘えてくる兄になすがままになりながら、帰ったらエイプリールフールの由来を調べてやるといささか物騒な気持ちで決意する輝二だった。


それでも嘘の日に嘘でない気持ちが通じるのは、少し不思議で心地よい。


そんなささやかな幸せ気分は調子に乗った兄が服の下に手を伸ばして輝二の条件反射のカウンターを食らって沈没するまでは続いていたそうな。そのあたりはまだまだ前途遼遠である。


4月1日にアップしないと半分くらい意味のない話・・・(笑)
どうでもいいのですが、フロはテレビの森の回で泉の学校に桜が咲いていたところを見ると舞台は春ですよね。 そしたら無印記念日が8月1日だからひょっとしたら4月1日はフロ記念日なのかなあ、とちょっと漠然と考えたのでした。
いえ、この話とは関係ないですが。サテハテ。

このエイプリールフールの「言葉は通じないが気持ちは通じるオチ」は遥か昔から暖めていたのですが何せそれまでの活動ジャンルがジャンルなのでさっぱり使うことができずにいました。今回それが出せてちょっと幸せ。しかしエイプリールフールの由来ってちょっと調べてもなんかないんじゃないかという気がしてなりません。そもそも日常で本当に実施する人が珍しい気がする。でもネタとしては格好なのでありがたい(笑)


ちなみに今のところの双子はスキンシップオンリーです。

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