「輝二ってさー、自分の名前に疑問を持ったことなかったのか?」
「疑問?」

デジタルワールドの旅の中、輝一参入後に純平と拓也とで 食料調達をしていたときだった。

「いやだって輝『二』って普通一人っ子につけないって。」
「そうか?別に弟限定の名前とも思わないが?」
「いやそりゃ「こうじ」の「じ」が司とか歴史の史とかの場合であって数字の二を一人っ子につけるのは変だろう?大抵そういうときは自分の前に死んじゃった兄弟がいるパターンが・・・」
「・・・純平・・・泉がいなくてよかったな・・・。また肘鉄食らう所だったぞ・・・」

拓也に指摘されちゃお仕舞いだな、と苦笑しながらも輝二はその場にいない、話題の主(表立ってはいないが)を思い浮かべた。

「滅多にないからといっても絶対なわけじゃない。数字の二を名前に持つ一人っ子がいないわけじゃあるまい。そういう「常識」に捕らわれるのは感心しないな」


・・・いや、お前は少しはそーゆー「常識」に捕らわれた方がいい。
、と特に拓也などは思ったものではあるが。




・名前・




「・・・へえ、そういう会話があったんだ。」
「あったんだ。お前はどう思う?」

デジタルワールドから帰還して一週間。検査入院明けも間もない輝一はすっかり健康体である。というか、意識がぶっ飛んだワリにもともと外傷がほとんどなかったのだが。しかし、だからこそ医者も過剰に綿密に検査したフシがある。まあ、実際、あれだけ思い切り「死んで」たのが無傷で蘇れば、誰でも怖い。

「輝二と同意見だな。それじゃ「新一」や「太一」に弟がいなければならないというのと同義だもんな」
「・・・その論理はなんか違う気もしなくもないが・・・」
「それに輝二の名前が輝司とかじゃ締まらないし」
「いや、それは完全に問題が違うと思うが。」

ボケた会話が続くが、割と二人とも真面目である。

「実際この名前で俺よかったと思うよ。だってこれならどう考えたって俺が兄だもんな」

にっこり笑っているが、何となく瞳の奥は笑ってない。何気にふんぞり返っている雰囲気すらある。輝二としては面白くないとかそういう次元ではなく、心持ち「思わず」引いてしまう雰囲気だ。何気に天然に威圧感のある兄である。ダスクモンの強さはここが源なんじゃないかと思う弟だ。

「それに兄弟ってすぐ解る。・・・母さんは俺達が生まれる前から父さんと別れるって解ってたのかなあ」
「・・・なんでだ」
「いくらなんでも安直過ぎる名前なのは確かだよ。普通に一緒に暮らしてたら漫才コンビにしか思えない。」
「・・・・・・」

とはいえ、まさか両親に『この名前って適当なの?』と聞けるわけもなく。
ましてや『別れた時のための兄弟の目印としてつけたの?』とはもっと聞けない。
もしかしたら自分たちには及びも着かない、何か理由とか両親の想いが込められているのかもしれない。だとしたら聞くこと自体が野暮である・・・とはいえ全くそれが想像できないから困るのだが。

「ま、そのへんは別にいいよ。名前、気に入ってるし。」
「・・・うん」
「それに、輝二の名前聞いたときさ、少し嬉しかったんだ。」
「嬉しい?」


『俺だけが「居る」んじゃないってちょっと思えて』


・・・勿論もとから「独り」じゃない。
母もいて、祖母もいて、友達だっていた。
だけどそう思えば思うほど、・・・「思わなければならない」と思えば思うほど、 空漠とした何かが胸に溜まっていたのは確かだ。それは母の迷惑になっているという 「自覚」の成せる技だったのではないかと最近思い至るようにはなったのだが。

『輝一』という名前は、まるで「自分だけが輝いてる」ような錯覚を覚える。
「輝く」というより、闇の中に浮かび上がって独りきり、という印象で。

・・・名前が嫌いだったわけではないから、単なる思いつきのようなものだが、 それでも、後に続く「輝二」がいなかったらとても寂しかったのは確かだろう。そう思う。


それきり黙ってしまった兄を、輝二はじっと見つめていた。
兄の言葉の真意は不明だ。ただ、何となく感覚はわかるような気がした。
「自分しかいない」という気持ち。優しく手を差し伸べてくれる家族がいても、自分は「独り」だと実感する気持ち。それには嫌と言うほど覚えがある。

それは異世界で色々ぶつかり合って得た「実感」がその孤独感をかき消してくれるまで自分を苛んできたモノだったから。

「・・・そーいえばずっと忘れてたなー・・・」
「輝二?」
「何でもない。」


輝一はというと、くすくす笑い出した弟の横顔を不思議な気持ちで見ていた。
何故笑っているのかが解らなかったからだが、それだけでもない。

一緒に生まれたこの弟は、顔は間違いなく同じだが中身は似てるんだか正反対なんだか時々全くわからない。会ってさほど時間は経ってないから解ってなくて当然といえば当然なんだが、「解らない」のが全く気にならないのが不思議だ。気にならないというか、「もう既にわかってる」という勝手な感覚がある。要は甘えているのかもしれない。

「輝一っ!」
「な、何?」

ぼけっとしていたので必要以上に驚いてしまった。ずっと見てた筈なのにいつの間にやらこっちを向いて手を差し伸べていて更に驚いた。

「今までずっと一緒に居られなかった分、これから取り返さないか」
「・・・輝二」
「離れて住んでるから簡単じゃないけど、何とか頑張って。」


お前が孤独感に悩む暇のないように。


言外の意味が通じたかどうかは定かでない。だけど。
差し出した輝二の手を取ったときの輝一の笑顔は、輝二のそれと瓜二つだった。




・・・その差し出した手を取った手で思いっきり引っ張って引き倒した挙句二人して植え込みに沈んだのは、まあお約束ではある。ちなみにこの強引なスキンシップのツケは輝二の一週間のシカトで払われたとか。似てるのか似てないのか通じてるのか通じてないのか、どこまでも微妙な双子ではあった。



時間戻って双子じゃれあい事始。

うちの双子は基本的にどっちが上下なのか微妙です。いえ、身体は兄が上・・・ごにょごにょ。
ちなみに「天然に威圧感あるイメージ」はあのアイキャッチに他なりません(笑)
しかし書いててナンですが一兄に友達がいたというCDドラマの一文に真っ先に「そりゃ嘘だ」と断定した私は一兄好きとは言ってはいけないんでしょうか。個人的にその「友達」は「同級生」と読み替えたいワタクシです。

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