・ラプンツェル・

「そうじゃねえって言ってんだろ!ったく何でお前はそうなんだ!」
「それはこちらの台詞だ。大体お前はいちいちどうしてそう突っかかる」
「つっかからせるお前が悪いんじゃないか!」


デジタルワールドを旅する五人の子ども、そのうち二人のいつものコミュニケーションを、残りの三人は『またか』という顔で 聞くともなしに聞いていた。


「どうして言い合いの形でしか話せないのかしらね〜」
「輝二さん無駄話しないのに拓也お兄ちゃん輝二さんに話しかけたがるからね」
「輝二も話しかけたのを無視はしないからなあ」


とどのつまりは「普段滅多に話さないヤツの反応が見たい」という、ありふれた半嫌がらせ半好奇心+αから来る行動なのだが、 進行によって『勝負』『逃げるのか』といった単語が出てくると大変シャレにならない事態になるので(実際獣進化した二人が マジバトルに入ったときは大変だった)、三人としては もーちょっと穏やかなコミュニケーションの確立を望みたい所であった。


「輝二はあーゆー性質なんだから、拓也ももーちょっと抑えればいいのにな」
「拓也って思いっきり『俺色に染まれ』性格だもんね」
「・・・ひょっとして拓也お兄ちゃん無理やり系が好きなのかな?」
「・・・友樹・・・人が聞いたら誤解するぞ・・・(あの二人だけじゃなくてお前自身も)」



そんなうららかな午後のひととき。
危険単語は出る気配はなかったが。
ある『音』が響き渡った。



『ぷちっ』


「え?輝二キレたの?」

そう、切れた。

輝ニの、髪を止めたゴムが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・ッ・・・」
「?」
台詞を吐こうとした拓也の時が止まったのと、髪の違和感に輝二の時が止まったのはまったく同時だった。


「!・・・嘘だろ・・・?・・・くそ・・・」
それまでひっつめてまとめていた髪の毛がいきなり解放されて広がるのを心底忌々しく舌打ちしながら輝二がバンダナを取り去ると、 細い黒髪が一瞬ふわっと広がった。それまで後ろに流していたサイドの髪が顔にかかり、本人的には大変鬱陶しい状態だ。

が、それはあくまで『本人』の話。

「こ、輝二・・・」
「?何だ拓也、鳩が豆鉄砲くらったような顔して・・・」

皆輝二の髪が長いことは知っていた。だが後ろで一本に結び更にバンダナを使用することで、「長い髪」であることがほとんど 実感できていなかった。そのときそこにいた輝二を除く全員が、「知る」ことと「理解する」ことに大きな差異があることを 文字通り「理解」したのだった。




「うわマジかよお前そうすっと女の子みたいですげ可愛いじゃん!」




ぶはっ!とストレートな反応した常識人一人。
今の「可愛い」は「お前」と「女の子(世間一般)」のどっちにかかってたのかしらと白濁しかけた頭で考えた冷静な人一人。
今一人は「デジタルワールドの兄」と完全同調して、既に輝二の髪の毛で遊ぼうと駆け寄っている。
ちなみに言われた本人は瞬間固まった。

「・・・なっ・・・」
「うわー赤くなってやがんの、すげ可愛いー!」
「ば・・・馬鹿にしてるのかっ!」

とはいえ輝二の顔は今もって真っ赤っ赤だ。いつもの輝二なら無反応にその場を去ってとりつくしまもないハズだよな、と考えると 何故か気分が高揚してるのがよくわかった。

珍しい輝二。知らない輝二。いや輝二のタイプ自体が拓也にとっては既に珍しい。
自分に簡単に同調しない同級の人間を、拓也があまり知らなかった。いないワケではなかったが、そういう奴は 大抵は単に拓也の周辺までたどり着けない影の薄い人間だ。自己主張の強さで拓也に敵うクラスメートは おらず必然的に拓也はかなりの割合で自分の意思通りに生きていた。責任感は人一倍あるので少々無謀でも許してもらえた節もある。
輝二は違う。
見惚れるほどに強く、そして全然『仲間』になってくれない。意見に同調するのにも、「拓也の意見だから」的な甘い要素は 一切ない。輝二の意見と一致、もしくは許容範囲であるときに、自分と行動を共にしてくれる。
それが悔しくて何もかもを思い通りにしたい反面、そんな輝二の気質に新鮮な気持ちのよさを感じてもいる。

その輝二がそれまで見たこともないような狼狽状態に入っている。

チャンス。

何のチャンスかよくわからないまま、拓也はそう心で呟いた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「うーんお前ひょっとしてシャンプーのCM出れるんじゃないか?」
言いながら拓也は一房輝二の髪を手にとっている。その一房を顔の近くに持ってきているので 何と言うか髪を匂われてるのかはたまた口付けられてるのか、なかなか微妙な構図になっている。


・・・恥ずかしい。


いつもなら振り払ってそれでおしまい、なのだが、実は拓也の反対側に友樹がいて髪をいじって遊んでいるので動くに動けないのだった。
「そうだねーサラサラだよねvもうちょっと手入れしたらホントにCM出れると思うよー。あ、見てみて泉さん、三つ編みってこれで いいんだよねv」
・・・どうも「おにーちゃんなんだから守ってやらなきゃ」という拓也の主張を入れてしまって以来、この幼児には弱くなっている 気がする。
泉と順平は基本的に苦笑いで見守っている。
助けろ馬鹿。
言いたいが言えない。
実の所髪の毛が解けたときには大抵いつもこんなカンジで面倒くさい。こんな風に直に触ってくるやつはいなかったが・・・。



「泉、ゴムか何か持っていないか。」
持っていれば出すだろうから期待はしてなかったが、案の定持ち合わせていないとの返答だった。
「どこかで手に入れられればいいんだけど・・・そのバンダナでくくっちゃうしか今は手がないかな。しっかりとは結べないと思うけど・・・。」
「成る程その手があったか。」
バンダナをぎゅうぎゅう引っ張るのには抵抗があるが、この際仕方ない。そう思って実行しようとすると即座に横から反論が出た。
「ええー?もうちょっとこのままでいてもいいんじゃないのか?だって可愛いし。」
うるさい。可愛い可愛い連呼するんじゃない拓也。、と心底思ってるのに頬が熱くなるのが本気で忌々しい。
とにかく付き合っていられるか、と二人から髪を奪い返してくくろうとした瞬間。

「拓也お兄ちゃん、ものは考えようだよ。それでくくったら輝二さんリボンつけたみたいでもっと可愛いし。」

ぴし。(←凍結音)

「そうか!さすが友樹!目の付け所がイイな!だったらさ、こんな色気のないくくり方じゃなくてもっと可愛いくくり方ってないか?」
「あ、じゃあポニーテールにしてみたらいいんじゃない?きっと可愛いと思うv」

泉、お前もか!(半泣き)

「どうせなら徹底しよう。友樹、ちょっと花摘んでこい。リボンが可愛くないからせめてちょっと飾ってやろう」

徹底するな!リボンじゃなくてバンダナだ!飾るな!

不覚にもどれから突っ込むべきかを一瞬迷い、とにかく抵抗すべく身を乗り出したら。
「輝二、おとなしくした方がいいと思うぜ♪」

後ろから純平にがっちり抑えられていた・・・。お、お前だけは信じていたかった・・・。

しかしこのまま玩具にされるのも嫌だった。この際純平に手傷を負わせても・・・と殺意を秘めた決心を固めた瞬間。


「暴れたらちゅーするぞ。今のお前なら可愛いから気にしなくて済みそうだ」





気にしろ!と突っ込むよりも今の拓也ならやりかねんと想像して脱力する方が先だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あ、あのさー・・・怒ってるか?」
「・・・お前がされたら怒らないのか・・・?」
「・・・その間・・・まだ怒ってるな・・・」
「当たり前だ」


結局皆がお腹がすくまで弄ばれた輝二は、結局食料調達中に拾った縄で髪をくくってしまった。
以降は何を言われてもひたすら沈黙を続け、よーやくお言葉が出たと思ったらとっぷり夜中だ。
さすがにチョーシに乗りすぎた。
次はもっとうまくやろう。
などと反省してるのかしてないのか微妙な気持ちで拓也が神妙にしてるのを見て、輝二はそっと息を吐く。



いつからこの長さだったのだろう、この髪は。
物心ついたときはすでに後ろで束ねられる長さだった。
さっぱりしたかったが父はそんな気を回してはくれなかったし(多分能力もなかった)、母にはとても頼めなかった。
お店で切ってもらうのは、何だかイヤだった。
切らなかっただけ。でも積極的に切りたいと思わなかったのも確かだ。今更といえば今更だがどうして・・・



「輝ニ、そろそろ機嫌直してくれよ」
その声にはっと我に帰る。よそ事を考えていたことにはどうやら拓也は気がついてないらしい。
「二度とするな。それならいい。」
「うん。あんな風には二度としないv」
少しばかり引っかかる物言いだったが、思考ループにはまり掛けてぼうっとした頭では突っ込むことができなかった。


「でも時々はああしてもいいんじゃないか?そしたら珍しくなくなって少なくともあんなにはならないと思うぜー。それに可愛いし。」
「可愛い可愛い言うんじゃない!」




自分には『課せられた謎』があるとオファニモンは言う。
『自分』に何故『謎』があるのかと、多分拓也たちなら言うだろう。だが俺にはそう言い切れない何かがある。 それだけはずっと感じている。ただその内容も有無すらも自分にはまだわからない。それがもどかしくて 行動に支障が出ることもかつてはあったが・・・。





「あ、そゆとこ可愛い。」
「だからそれを言うなというのに!」




今はただ成り行きに身をまかせよう、と思う。コイツラといればわからないことに拘る暇はなさそうだから。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



以降、拓也が輝ニに絡むときは「可愛い」を連呼するようになる。この絡み方は戦闘に発展することが極端に少ないため 輝ニのストレスと引き換えに 他の三人が当社比25%増量の安心を手に入れたわけだが、それはまた別の話。



主観がころころ変わって読みにくいかもしれない。小説初書きなんで見逃してください(甘えるな)。
とりあえず輝二の長い髪に何かウラがないかな、と思って書きましたが、まだそのウラは思いついてなかったり。

<→DEZI> <→TOP>