「・・・輝二、どうしたんだッ!?」
「どうしたって・・・ああコレ」

久しぶりに会った弟が腕にギプスはめて包帯だらけだったら兄でなくても普通慌てる。
が、弟の方は何でもないという風に一言。

「この間誘拐されてな」


・誘拐魔・


・・・なんか、そんな「この間遊園地に行ってな」みたいなカンジで言うことか?
おかげでその単語の異常さに不覚にも気がつくのが遅れた兄である。

「・・・ゆーかい?」
「うん。久しぶりに」

・・・久しぶり・・・?

輝二の話を要約するとこうだ。

輝二は小さい頃から本人が覚えてるだけで5回は誘拐されかけている。おそらく本人が自覚してないのを含めたらもっとあるんだろう。身代金目当てだろうというのが輝二の解説だ。

確かに輝二の家は金持ちだ。(輝二は全くそうだと思ってないが)都心の庭付き一軒家。しかも輝二曰く無駄に大きい。輝一も入ったことがあるが確かに天井は高いわゆとりがたっぷりだわ家具はさり気に高級だわ、大抵の人なら「裕福な家庭だなあ」としみじみ感心する家である。・・・まあ小さい頃に一人で留守番してたであろう輝二がその広い家によい感情を持っていないのは、何となくわかるような気もするのだが。

しかし金目当てでなく輝二本人が目当てな誘拐だってそれはあっただろう。というよりその5回のうちの2〜3回くらいはそっちだろうと輝一は睨んでいる。なにせ輝二はそういう意味で目立つ。まず長い髪で目を引き、ついでそれが男の子だと気付くと何故か目が離せなくなる。中性的、というほど女の子っぽいわけでもないのに男の子と思えなくなる雰囲気が輝二にはある。浮世離れしてるというのか、うまい表現が見つからないが何か手を伸ばしたくなるモノがあるのは確かだ。

輝二はその両者をごっちゃにして全員金目当ての犯行だと思っている。曰く。

「あいつらの触り方は無用に気持ちが悪い」

・・・純粋な身代金目当ての犯人に少しだけ同情する。


「父さんが事故にあったと聞いて油断したら車に押し込められたんだ。手首縛られたけど縛られた直後を狙って蹴っ飛ばして、そのまま後ろ手でドア開けて飛び降りた」

・・・情景を想像する。血の気が引くとはこのことだろうという感覚が全身を覆う。

「・・・そりゃ飛び落ちたの間違いだろう!!!」
「道路脇の植木の上に落ちるようには祈ってたがな。結果はこのザマだ。あいつらは紳士的な方だったから運がよかった方だぞこれでも。いきなり殴られたりすると抵抗する気力が回復するのに少し時間がかかるんだ」
「・・・輝二・・・今までよく無事だったね・・・」
「運がいいと俺も思う。」

どんな武勇伝や奇跡でこの弟があらゆる意味で傷物にならずに済んだのかは怖いので聞かないことにした。
この思い切りのよさがデジタルワールドでの戦闘能力に変換されたのだろうか?

「さすがに5回も経験するとむやみに近づく者には警戒するようになってたから最近はあまりなかったんだがな・・・」

・・・拓也が輝二にくらった最初の言葉はよく彼が愚痴るから輝一も知っている。ひょっとしなくてもそれはコレが原因で、尚且つ今回久々に誘拐されちゃったのはあの経験で対人に丸くなった結果なのかと思うとさすがに少々頭を抱えた。

(・・・極端だよ輝二・・・)

察するに最初にまず疑い拒絶する輝二の行動は経験の産物の意識的なものでしかないらしい。この辺りは輝二は人がいいというよりは(いや勿論外面に反して大変人がいいのだが)、あまり自分のことを考えていないために他人が自分に関わってくるのが理解不能でそれゆえに素っ頓狂な反応を返してるだけのような気がしてならない。結果として危なっかしいことこの上ない。


「輝二。そんだけ経験してたら、よくない人種はなんとなくわかったりしないのか?」
「よくない人種?」
「そ、下心で近づく人間。輝二の気持ちなんか全然考えないのに馴れ馴れしい。もっといえば輝二のことなんか獲物かデザートくらいにしか見てないよーな奴」

・・・何故か口元が笑みの形に歪む。

「・・・こんな風に。」
「!?」

言うが早いか足払いをかけて後方に押した。不意を突かれた輝二はまともに倒れてしまう。通りすがりの公園で下が土なのは確認済みだったのだがそれでもまともに背中を打ったらしく、気持ちも身体もすぐには回復できない。加えて輝二は現在片腕が不自由だ。輝一は手早く怪我をしていない方の腕を押さえつけ、身体全体で輝二を地面に束縛し、

そしてそのまま口付けた。


予想外の展開に輝二が目をぱちぱちさせるのが感じ取れる。
少し顔を離すと、赤くなることすら忘れているような、呆然とした表情の弟がいた。

「わかった?」
「・・・な・・・何が・・・」
「輝二、もしそのまま誘拐されっぱなしだったらそいつらにこーゆーことやられてた可能性は結構高いんだよ。」

・・・その言葉は浸透するのに少し時間を要したらしいが、効果は劇的だった。
今更ながらに青ざめて口元を覆う。気分が悪くなったのか、目の焦点が合わない。

「・・・こんなこと、を、あいつらが?」
「全員が全員じゃないとは思う。確かに輝二ん家は金持ちだし金目的なだけのもあったと思うけど、それでもそんな荒っぽい奴らが獲物を取り囲んで穏やかなわけないだろ?輝二は女の子じゃないけどその代わりにしようと思う位には可愛いんだから少しは自覚して。」

そう言って身体を離して自分が引き倒した弟に手を差し伸べながら、内心では苦笑する。
土壇場で輝二のことなど考えてないのは自分も同じだ。
『輝一』も『あいつら』とさして変わらないということに輝二は気付いただろうかと、少し昏い気持ちで未だ呆然と座り込んでいる弟を見やる。

「心配しなくてもそういう人種は特殊な雰囲気があるからちょっと勘を働かせれば危険だってすぐわかると思うよ。輝二が『自分なんかに関わってくるわけがない』なんて思ってさえなければね。」
「・・・」
「・・・輝二」
「聞いてる」

差し伸べられた手を取ることもなく座り込む弟を、それでも輝一は手を差し伸べたままの姿勢で待った。輝二もそれに気がついたのか、ようやくその手を取って立ち上がる。

「そう思えば確かにそんな雰囲気はあったな・・・気をつける。ありがとう。」

大真面目にそういう弟に溜息をつけばいいのか微笑すればいいのか、兄としては判断がつきかねた。まあ輝二の自覚を促すという目的は達したんだからいいかと気持ちの整理をつけた。が。


「お前以外にあんなことされるかと思うと虫唾が走る。そんなのは御免だ。」


・・・今、何て言った?
「・・・俺なら、いいの?」
「・・・兄さんならいい。」

兄に見向きもせずに踵を返して歩きながらそんなことを言う。輝一もそれを慌てて追う。追い越して輝二の正面に回ると案の定、輝二の頬は赤かった。それでも目を逸らさずにこちらをじっと見ている。

もう一度唇を重ねたときに先に目を瞑ったのはどっちだっただろう。

「・・・ひょっとして誘拐成立?」
「される側が望んだのなら成立しないだろう。」

悪戯っぽく問いかける兄に微笑しながら応える弟。先ほどのちょっとした妖しい雰囲気はすっかり消えて、すっかり普通の「傍目に仲良し兄弟」だ。それなのに、何だかえらく遠くに来てしまったような感じがする。

(まあいいか。『怪我の功名』ってこんなことかな。)

他人が聞いたら「違う!」とつっこみたくなることを二人とも同時に違う意味で考えていたのは、別に彼らが双子だからというわけではない。



ちなみに二人がこれが「ファーストなんたら」だったと気がつくのは、それぞれが家に帰り着いてかなり経った頃だった。


誘拐ネタ。色んなバージョンを想定してその中で最も軽いものをチョイス。だってフロにあまり重いものは似合わん。しかしファーストキス話にする予定はなかったんだが・・・(笑)・・・兄・・・とそれ以上に弟・・・。(笑)

ちなみに管理人は誘拐はされたことないけど茂みに押し込まれて首絞められたことが一回あります。未遂だし今だから「どうせなら美人狙えよ」的に笑いながら話せますが5年位はトラウマでその道通れませんでした。なもんで私は犯罪ネタに夢を持つタイプの話は大変苦手としております。犯罪ネタは乗り越えるモノなら大好きです(ヤマト関連でよく見たなあ)。これはスルーしてますね(笑)

輝二はそゆ意味では強いので、ちょっとスーパーマンにしちゃったかもしれません(笑) ただし襲われるスーパーマン(笑)。ちなみに輝一は変な人遭遇経験はありますが2メートル手前で危険信号点滅により退避してるため全く何事もないということで。そのワリに妙に詳しいのは闇属性ゆえということで。(いい加減な)


つか、変なキス話。いや私らしいか。

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