綺麗な薔薇には色々ある





「賑やかっつか騒々しい街だなあ〜」
「私もこのような街は初めてです」
「このビアンコという街はカジノしかないような街ですから。」
キョロキョロするアデューとパッフィーにイズミが解説する。あちこちに色っぽいお姉ちゃんがあるのでほくほく笑顔である。
「こういう所は景気がよくてナンボだから、芸能のメッカでもあるんだぜ。」
旅慣れたサルトビが解説を追加する。若干得意気なそれにいつもなら反発するアデューだが、今はそれどころではなかった。
どうも今日はかなり大きな祭り…らしい。『ミス・ビアンコ・コンテスト』と銘打たれたそれは丁度優勝者が決まった所で最高潮に盛り上がっている。

「…あの人…」
圧倒的大差で優勝したらしいその人はすらりと細い肢体に形のよい膨らみをつけた理想的なプロポーションで、銀髪に浅黒の肌がよく映える。白いレースで花を連続させたドレスは清楚な印象を一見与えるが、意図的に肌を透かせているので凝視すればするほど艶かしい。当人は晴れやかに陽気に笑んでいて実に親しみやすそうな美女である。なかなか強面のいかにも街の有力者な男が笑み崩れて肩を抱いている。

「あー…ありゃあこの街の首領のカドスだぜ…」
ぶっちゃけそっちはどーでもいいのだが、サルトビがそう逃げたくなるのは解るので三人とも代わりを請け負うことにする。
「…ガルデンのねーちゃん…かな…」
「…ガルデン以外にかの一族が生き残っていたとは喜ばしい…」
「…ガルデンに教えて差し上げたいですわね…」

ガルデン以外のガルデン一族などいる可能性は状況的にほとんどないとか、遠い係累にしては似すぎだとか、そんな不安要素を目の前の女体という現実で無理矢理吹き飛ばそうとする一行である。
が、ステージの美女がこちらを向き、微かに目を見開いてげんなりと視線を逸らすのを確認してしまい。
…ああ、やっぱり自分らの知ってるガルデン一族だったかと黄昏るのであった…。

「…で、何なんだその姿は」
傍目にも憔悴しきったサルトビが口火を切る。叶うものなら逃げ出したいが放置したらしたで精神衛生に多大な害が出ると自覚したが故に自ら居場所を突き止めた心労は察して余りある。そして突き止めたガルデンの、隠れ宿としか言い様のないそこに一同揃っているわけだ。
「魔法だ」
簡潔すぎる答えに解っとるわんなこたぁ!!と叫べない主に男性陣である。
「あんまり堂に入っているので実は女性だったというオチかと思いました…」
「ほう、それは最上の褒め言葉だな」
男性陣の葛藤を図らずも解消したパッフィーに対し、ガルデンは得意気というか嬉しそうだ。何かもう、色んな所で根本的なズレを感じつつ、サルトビが呻く。

「…わざわざ魔法でそんな姿になって何をしてるんだって話だよ!!」
「見て解らんか?色仕掛けに決まっている。」
「あっさりと爆弾発言してんじゃねえええ!!」
いい加減血管切れるんじゃないかというサルトビは既に肩で息をしている。
「おいアデュー!お前も何か言ってやれ!!つーか言ってくれ頼むから!」
「え、いやその、俺は」
アデューはといえば、ガルデンの姿に気をとられてまともな思考にならない。ちなみにガルデンは首領の所から戻った所で、羽織ったケープの下はあの白いドレスである。
その態度にガルデンは怪訝な顔だ。
「?お前は女には無頓着だと思っていたがこういうのが好みなのか?それとも年頃になっただけか?」
「び、ビックリしてるだけだよ!!魔法ってそんなこともできるのかっていう!!」
顔を覗き込みつつ無防備に近づいてくるガルデンを思わず追い払いつつ慌ててそう言う様はある意味ボロ丸出しなのだが、ガルデン(とパッフィーの天然組)はそれで得心したらしい。
「なるほどな、確かに精神的な魔法耐性がないとついていけんだろうな」
ぽん、と手を打つ感じで納得の表情のガルデンに突っ込み叫ぶ気力は最早サルトビにはなかった…。

「端的に言えば、これが欲しかったのだ」
机に出したそれは手のひらサイズの額縁付き絵画だ。額縁は明らかに後世の追加で、絵そのものは割とシンプルというか、即興画の趣がある。とはいえ、だからといって雑とかは決して言えないそんなシロモノだ。
「これは…マルゴーの作か」
イズミが唸る。パッフィーも身を乗り出して眺めている。サルトビは興味こそないものの名を聞いて驚愕の顔をしている。つまりその画家について知らないのはアデューだけらしい。
「有名…なんだろうな…?」
「解説するのも面倒なレベルだぞ」
心底呆れた声でイズミが言う。その後謳うように滔々とその画家の功績が語られるのを遮る形でパッフィーがアデューに捕捉する。
「作品数が少ないことでも有名なんですよ。世に知られていない作品が出るなんて大事件ですわ」
しみじみと感心して言うので贋作の可能性とかは言い出しにくい雰囲気だ。

「私もこれが残っているとは思わなかった。てっきり焼失したとばかり思っていたからな」
「…って、この絵前から知ってたのか?」
アデューの素朴な疑問にうっと詰まったガルデンだったが、微かに躊躇った後、観念したようだった。
「私自身は覚えていないのだが、母が里の近くで行き倒れていた画家を助けたことがあって、そのときに礼として肖像を描いてもらったことがあったそうだ」

その言葉に一同ぽかーんと揃って呆け、改めて食い入るように小さな絵に顔を寄せた。
絵柄は美しく若い女性と、愛らしいよちよち歩きの年頃の子のツーショット。と、いうことは。
「…これが…お前と…お前の…お袋さん?」
絵の女性は「少女」に近く、快活な表情がより幼く見せていて、とても「母」には見えない。
「の、筈だ。」
ガルデンも記憶より幼い母の姿に戸惑っているようで若干目が泳いでいる。
が、しばらくすると懐かしげな表情になる。あの絵ががあればお前が少しは寂しく思わないで済むかもしれなかったのにと今わの際に呟いた姿は儚げだった記憶しかないが、この絵を見ていると元気だった姿が脳裏に甦ってきたのだ。
「…そうだな、確か事有る毎に自信満々に私の父親をべた褒めしていたな」
「そりゃ間違いなくお前のかーちゃんだな…」
なるほどガルデンの強烈な誇りの高さはこの美少女が根源なのかと感心するやら溜め息つくやらである。もっともガルデンにはまさかその父親が邪竜族だったとは的な感慨もあったりするわけだが。
「さすがに空前絶後の天才というだけあって似てる似てないではないな、魂が込もっているとしか言い様がない。本当に会えた気分だ…」
しみじみと嬉しそうに呟く表情は見てる方も思わず幸せになるようなもので、サルトビですらうっかり見惚れてしまっていた。
「ホンットよかったなあガルデン!でも何でわざわざ女に化けなきゃならなかったんだ?」

あ、馬鹿。

ガルデンの笑顔に頭の回らない状態で、サルトビとイズミが同時に硬直する。そこは永遠に謎にしておかないてヤバいんだと目で訴えたときには既に遅かった。

「あのカドスという男は心底女好きで美男には敵愾心を持つタイプだから、穏便に譲ってもらおうとしたらこれが最善だったまでだ」
さらりと自分の美貌を口にするのに突っ込むのは最早無駄の極みである(事実だし)。
「…でも随分いつもの貴方と違う感じでしたわね?」
「あれがあの男の好みだったというだけのこと。」
フンと顔を反らして、しかし滔々と解説に入るガルデンである。
「懐に入り込むのに相手を調べ尽くすのは当然だろうが。あの男の好みは『陽気で妖艶で御しやすい美女』だ。まあ最後の要素は私には不都合だから『一見そう見えて実は』という設定にしたが」
「好みを見抜いてそれを演じた…と…?」
パッフィーが興味津々なのは演出を心掛けるのを常とする王族ならではだろうか。
「イドロの演技指導は苛烈だったからな。演技指導の間の敬語の取ってつけた感がツッコミ必須レベルだったものだが…まあ本当に取ってつけた敬語だったわけだが」
最後の部分で寂しい表情でいる所に突っ込むのは色々礼儀に反してる気がするのでサルトビですら黙っていたが、そこは何か違うだろと男性陣が思う反面、パッフィーの瞳は何やらきらきらしている。
「よもや人形の気持ちになるために身体に添え木をしたり一晩中通し稽古をしたり!?」
「ああ、そんな感じだが?」
…パッフィーの脳内は往年の少女漫画の絵柄で「貴方は覇王になるのよ!」「覇王に…!」が展開されており妙な感動にうち震えている。
その少女マンガを知らない者でも、イドロがノリノリで演技指導してたのは何となく解るのだった…

「ま、まあこの姿でお願いしたらイチコロだよな…」
無難に纏めようとしたアデューだったが、ガルデンはたしなめるように訂正する。
「あのテの男に真正面から頼んだらそれをダシに一生しゃぶられるぞ?自分から差し出すように持っていかないとな」

聞くのが怖くて皆黙っているが目はどーやって!?と語ってしまっているのが悲しい人間のサガである。
そしてガルデンはそんな空気を敏感に感じ取って楽し気に事情を語る。

「上流社会の裏事情とコネクションをちらつかせていたら足元にひれ伏す勢いになったから多少蹴飛ばしてみたら隠れた性癖に目覚めたようでな。全財産投げ出しそうになるのを宥めるのに苦労したぞ」

おかげで予想以上にうまくいったと声高らかに笑うのを、特に男性陣は居心地悪く聞くのだった。アデューなどは頭では理解できないのに身体がもぞもぞするからちょっと泣きそうだ。サルトビは俺は呆れているんだ決して羨ましいなんて思ってねえええええと必死で念じていたし、イズミはどちらかというとパッフィーがうんうんと頷いているのに戦慄を覚えていた…。



喉元過ぎれば熱さを忘れる、という。闇騎士時代のガルデンのことは『強かったけどもう倒した、つまりはもう脅威じゃない』という意識だったのだが、実はものすごく恐ろしい敵であったことを痛感させられた一同なのだった。


今回のにょたガルの話は、最初はアデューの一人旅での出来事でした。
アデュガルで行きたいというよりは、まあにょたが大人数にバレるのは後々面倒くさいかなと思ったのです。話が広がって(笑)

が。

アデューが女体にまごまごして話が進まない

そんなアデューをからかうガルデン

更にまごまごするアデュー(メラゴーストか)

さらに調子にのってからかうガルデン

アデューぷっつん

…にょたの理由とか愉快なガルデン様とかの当初の予定にまったく触れないまま裏行きの気配しか漂わない!!!!いやそれはそれでもいんだけど、でも最初はギャグで展開したいんだってば!!!

そこまで来てつまりはツッコミが足りない!!!!という真実に辿り着き、救世主となったのがマシンガンツッコミを必殺技とする志村新八サルトビでした(笑)そんであとはもうなし崩しにパッフィーもダブルボケとして登場し、イズミはおつきで登場です。
…おかげさまで当初の予定は自分的にはクリアしてスッキリしたので、心行くまでアデュー一人旅バージョンを堪能したいと思います(笑)既に上記のノリとは違う展開になりつつありますがまだ頭の中ですから色々行先不明です。

しかしサルトビは書く度に色んなポイントが急上昇するなあ。主に気の毒ポイント(爆死)
作中のオリジナル固有名詞は割と思いつきの音で決めた感じ。マルゴーさんのイメージはダヴィンチ村のレオナルドさん。

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