綺麗な薔薇には本当に色々ある


邪竜族との戦いの後、アデューは再び旅に出ていた。直後に追い付いたサルトビ、パッフィー、イズミと共のときもあったが、サルトビだけだったり、パフリシア主従だけだったり、エルフ兄妹だったりと面子はその時々だ。今はアデューの一人旅だった。
「賑やかっつか騒々しい街だなあ〜」
…一人旅は気楽だがうっかり独り言を言ってしまうのがこまりものだ…返答する者がいないことに一人で照れてしまうアデューである。随分と一人旅に不慣れになったもんだとしみじみしつつ、恒例の「はじめての食事inこの街」をしようと意気込んでいたら、ちょうど祭りのようで街道沿いに露店が並んでいた。
これ幸いと夢中になって食べまくっていたら、街道から歓声が聞こえてきた。
「今年のミスコン優勝者はまたたまんねえなあ」
露店の親父が相好を崩すので振り返ったアデューはくわえていた焼き鳥の串を思わず吹き飛ばしていた。
いかにもな街の有力者な強面の男が抱き抱えている美女が見知った顔にそっくりだったからだ。

「ガルデン!?」
普通なら雑踏に紛れて聞こえない筈のその叫びをその美女はしっかりと聞いたようで、振り返ったその顔は驚愕と困惑を全面に出していた。
肌を露出させた衣装のおかげで色々あり得ないものも確認してしまったが、その表情であれは間違いなくガルデンだと確信するアデューなのだった。



「えっと、状況の説明をまずお願いできるかな」
いささか仏頂面でアデューがそう切り出したのは訳がある。あの後首領の屋敷に突撃したアデューだったのだが、ガルデンに襟首引き捕まれて絶対に邪魔をするなこの地図の場所で待っていろと言われたのである。それで素直に引き下がるアデューでもないのだが、思い出の品を譲り受けたいという動機と、女の身体に負担になることはしないという確約を得て渋々従ったのであった。
「しかし…どこから話すべきやら…」
『状況の説明』というものに慣れていないガルデンがやたらと躊躇しているのを見てアデューは業を煮やす。
「ああもう細かい事は別にいいよ!とにかく変な事はされてないんだよな!?」
「ああ、必要以上の接触はしなくてすんだ。」
アデューはそれでひとまず安心したのだが、ガルデンは怪訝な顔をしている。
「どうも解らんな。お前は女には無頓着だと思っていたのだが」
「お、女子供は守らねばならないってのは騎士の鉄則だ!」
「生憎私は男だ」
にべもないガルデンである。
「いやそーだけど、今は」
「…外見に左右されるのは不思議でもないが、お前は私を男だとよく知っている。加えて馬鹿正直に理想の騎士道を求めるあまりに生身の女への反応が今一つだから、気持ち悪がるならともかくこんな反応は予想外だな。」
「…おい、何だその分析…」
「お前は私の最大の敵だったのだぞ?敵を調べるのは当然だろうが。」
「…そーいや名乗った覚えもないのにお前俺の名前知ってたっけな…」
そんな分析をされる程調べられていたというのは色々複雑だ。
「だからそのときに女を使う選択肢は真っ先に捨てていたのだが、よもや私が女に化ければよかったのか?」
「いや、その時だったら単に気持ち悪かった 絶対」


うまく言えないが今のガルデンだからこんな風に落ち着かないのだ。
確かにガルデンの指摘通りあまり自分らしくないと思う。男女で態度を変えるのはあまり感心しないと思っている筈なのに現実には胸の膨らみや透かされた肌に目が釘付けで触れたいのを我慢している状態だ。

待たされた場所がガルデンの隠れ宿で、待たされた間ふて寝していたため、アデューはベッドに腰掛けていた。ガルデンはそのすぐ隣にどっかりと座る。
ビックリして飛び上って逃げるのと凝視するという正反対の行為が同時に発生して、結果オーバーアクションで凝視する形になったアデューがいた。それを見てガルデンは堪えきれずに笑う。
「要はそういう年頃になったというだな、喜ばしいことだ」
お子様扱いに若干ムッとしながらも相変わらず胸の谷間や時折ちらつく足などから目が離せない。
「どうだこの服は。」
悪戯っぽく笑いながら無邪気に顔を覗きこみながら色気のある肢体を指し示してくる。その顔は間近で見れば男の時より線が細く、長い睫毛や艶やかな唇がやたらと目を引く。
「お、お前面白がってんな!?」
絶叫するアデューに、ガルデンはますます相好を崩す。
「実際面白い」
先程から笑いの止まらないガルデンに、ふとアデューは違和感を覚えた。
「…お前…何かえらく陽気だけど…酒か何かに酔ってるのか?」
「ん?ああカドスの好みに合わせて役を作ったのが微妙に抜けてないのかもしれん」

艶然と、それでいて陽気に笑う様を、綺麗だと思いつつも素直に愛でることのできないアデューがいた。 自分の知らないガルデンの一面を、演技とはいえ他人が見たというのが腹立たしい。勿論アデューとガルデンが『知り合った』のはつい最近で、そんな風に思うのは変だと解っているのにだ。理不尽だと解っていても苛立ちは目の前のガルデンに向かう。
「いくら思い出の物だからって女に化けて頼むなんて騎士らしくない…」
不貞腐れてそう呟かれるとガルデンもムッとする。
「…これが一番穏便かつ確実だと判断したのだ。お前にどうこう言われる筋合いはない」
「ないけどさ!!」
思わず激昂してガルデンは勿論アデュー本人もビックリしたが、この際と不満を叩きつける。
「見てて嫌なんだって!必要だったらどこまでやるつもりだったんだよ!?」
「どこまでって、必要ならばどこまでも。この件に関しては身体は一夜限りの紛い物、何をさせようと大した問題には」
「大有りだ!!」

最初は訳も分からず怒っていたが、今は明確に怒っている。

「何が問題なのだ?」
きょとんと首を傾げるガルデンは恐ろしいことにやたら可愛い。こめかみがズキズキ痛む感覚に耐えながら努めて冷静に説こうと懸命だ。
「月並みで悪いけど、自分を粗末にすんなって話だよ!!」
「粗末になどした覚えはない。使えるものは使う、それだけだ。」
淡々という姿にどうしようもないズレを感じて何だかものすごくやるせない。
「私はずっとそうしてきた」
ぽつりと追加された言葉にはっとなる。
闇騎士時代のガルデンは一人だった。イドロの協力はあれど、身一つで物事を進めていた事に変わりはない。
「今まではそーだったかもしれないけど、今のお前は俺達の仲間なんだから、その」

もともと理詰めでどうにかするのは不得手なアデューだ。言えば言う程考えれば考える程こんがらがる。ガルデンの行動を非難したいのに、非難する根拠が公明正大にはない。せいぜい自分を大事にとしか言えないのでそれを一蹴されると後が続かない。だがガルデンがこの先同じ事をするのは嫌だ。何としてもその辺りの見解は改めて欲しいー。そんな感じで固まるアデューをどう見たのか、ガルデンがふうっと息を吐く。

「あまり固く考えるな。私は騎士道でいう婦女ではないのだから…」
いやそーゆー問題じゃないといいかけたアデューの手を取り、ガルデンが耳元に囁きかける。
「なんなら…確認してみるか?」
取った手を事もあろうに胸に押し当てて、だ。
「…お前の筆下ろしになら協力してもいい。そういう年頃になったのだろう?」
悪戯ぽく言われれば反発できるのに何でそんな艶ぽく言うのかと頭の中がぐるぐる回り、そもそも何故ガルデンがそんなことを言い出したかなど考えることもできない。喉がやけに乾いて生唾を飲み込んでしまい、そのごくりという感覚に更に飢えを自覚するー

「…いいのか」
気がつけば喘ぐようにそう言っていた。
ガルデンもこの返答は意外だったので一瞬きょとんとしてしまったが、すぐに笑顔で答える。
「ああ。ただ条件がある。私に口付けできたらな」

…にやりと笑ってそう言うガルデンの唇はアデューのそれで瞬く間に塞がれていた。勢い余ってそのまま押し倒される。

「…んなっ…?」
自分で蒔いた種とはいえ想定外の事態にガルデンは目を剥いている。そんなガルデンが可笑しくて、アデューは思わず笑っていた。
「これでいいんだよな?お前の口振りからすると俺が絶対しないと思ってたみたいだけど。」
「だ…だってお前、私は男で、互いにリュー使いだというだけの仲間で、ついこの間までは敵で」
目を白黒させて慌てふためく姿は驚く程新鮮だ。こんな風に追い詰められたことはないのだろう。そう考えるとやたらと胸が浮き立つ。
自分だけが知るガルデンの一面、その存在に高揚する。自分の知らない一面を他人に見せていることに理不尽に怒る気持ちと真逆で同根の感情ー
もっともっと未知の表情が見たいと、気がつけばガルデンの、今は膨らみを持つ胸に手を運んでいた。掌できゅっと握ると柔らかい感触で面白いように形が変わり、ぴっちりとした衣装が簡単にずり落ちる。
「ひあッ…ば…馬鹿…ッ!!いつまで揉んでおるか!!」
そう、気がつけば両手で夢中で揉んでいたアデューである。
「わ…悪い。あんまり気持ちよくてさ〜」
「も…揉んでる方はそうかもしれんがこちらはひたすらくすぐったくて恥ずかしいのだ!とっとと止めんか!!」

…胸を揉んで気持ちいいのはその柔らかい感触が心地よいからだ。誓ってそれだけなのだが、息を上げながら必死に耐えるガルデンの表情に感じるものは得体の知れない渇きと熱を呼び、それが下半身に血を集めていくのを嫌が応にも感じていた。

「…けどさ、この後ってどうすりゃいいんだ?お前筆下ろししてくれるって言ったろ?筆下ろしってアレだよな?正直言うと具体的には全然解らないんだけど…」
「な!?」
具体的説明の要求にガルデンは面食らったが、アデューとて必死なのは解る。ふざけているなら殴り付ければ済むのだが。
「お、俺だってこんな事言うのは恥ずかしいんだぞ!?けど騎士道大原則ひとつ!騎士は嘘をついてはいけないだ!お前も騎士だよな!?」
「…ッ…」
最早追い詰められて言葉もないガルデンだ。
妙な所で生真面目なので、言ってしまったからにはきちんと筆下ろししてやらないといけないという気分になってしまっていた。しかし色仕掛けとは自分から仕掛け、受け流すのが常で、相手の行為をまともに受けてやったことなど一度もない。今更ながら恥ずかしいことこの上なく、怒鳴って蹴飛ばして強制的に終了してやろうかと思うのだがー

『お前も騎士だよな!?』

…何気に頬が朱に染まる。あの一言が奇妙に嬉しくて八方塞がりになっているのだ。
恥ずかしくて恨めしくて、でも嬉しさも隠せない。この複雑な感情がそのまま顔に出ていることにガルデンは気がついていない。真っ赤になって恥辱に震え、涙目で上目遣いに睨みつつも何処か迫力はない寧ろ可愛いーその姿にアデューが雄の性を刺激されまくっているというのに。

やがて観念したガルデンが目を閉じてふうっと息を吐いた。
「少しだけ離れろ」
そう指示して…スカートの中から下着を脱ぐ。そして左手でスカートをつまみ上げ、膝を立てた。
「…お…お前の…それをだな…」
言葉にするのが恥ずかしいので空いた右手でアデューの分身を撫でるように触れて指し示す。触れたのは「え、どれ」などと聞き返されるのを回避したい一心であって他意は全くこれっぽっちもないのだが、ガルデンにまずい方向に効果絶大なのは言うまでもない。アデューに負けず劣らず余裕のないガルデンは全くその事に気がついていないので、無我夢中で段階を進める。
「…こ…ここに突っ込む…のだ…」
…涙目で震えながら自ら秘部を指し示す姿に、アデューの脈がどくんと跳ね上がる。ごくりと喉を鳴らして、しかし流石にガルデンの心中をおもんばかり、早く応えようと焦る。
「えと…じ…じゃあ…」
あたふたと態勢に入るアデューにガルデンも慌てる。
「ば…馬鹿者、いきなり入れるのではなくて、舐めるとか指でまずほぐすとか…」
「舐める!?」

思わず上がったすっとんきょうな声に、空間が凍りつく。
何処かでぷつん、という音が聞こえたような気がした。

「ま、待て!!今のは忘れろ…ッ…あ!?」
獣のような勢いでスカートの中に頭を突っ込むと、衝動にまかせてむしゃぶりつく。
「ッ…あッ…やあ…ッ…」
夢中でかぶりつきながら、耳に聞こえる喘ぎ声が段々と艶を帯びてくるのが嬉しくてたまらない。こんな場所を舐めることに些かも生理的嫌悪を感じないのが不思議だなあと他人事のように思う。
最初のうちは罵声混じりだった反応も、どこかうっとりしたものに変わっていく。猛烈に顔が見たくなって、先ほど教えられた『指でほぐす』に変更して、覆い被さるように顔を覗きこんだ。
…全くの不意討ちだったガルデンの表情は、ある意味予想外だった。
真っ赤になった涙目を驚愕で見開いた様は、何故だかやたらと幼く見えたのだ。超経験豊富だとばかり思っていたのだが、もしかして初めてなんじゃないかとまじまじと凝視すると目に見えて狼狽し始めた。
「…あ、あまり見るな!ッ…」
指を動かす度に感極まっていく様があまりに刺激的で、そのくせ合間には身の置き所のない迷い子のような表情を見せる。思わず支えたくなるようなその姿には既視感があった。敵対時代に洞窟で二人きりになったあの時だ。

思わず口元の笑むアデューだった。ガルデンの仲間入りを一人主張していた時、あの頼りなげな姿の存在を仲間たちにアピールしなかった自分の心を今頃になって理解したのが可笑しかったのだ。ガルデンの名誉をおもんばかったというのは建前で、あんな姿は自分以外の者は絶対に見ていないという確信と共に根付いた身勝手な想いー即ちこのガルデンは自分だけのものだという強烈な独占欲だ。
「アデュー…?」
思索に耽って動きを止めたのを怪訝な顔で伺うのが無防備すぎて、たまらず唇を奪う。最初のと違い食らいつくようなそれはやすやすと口腔への侵食を許していく。技巧も何もないのだが秘部を指で弄られてるからなすがままだ。荒々しい口付けを一息入れて間近で見るガルデンの瞳は動揺に揺れている。洞窟で覇王になる理由を聞いたときもそうだったし、邪竜族との最終決戦後にしばし一緒にいた時もいたたまれないのかこんな感じだったような気がする。あの過去を真っ正面から向かい合い悠久の時を過ごすのは傍目にもしんどそうで、不安気なガルデンを知っていると心配で仕方ない。

だから、自分が力になりたい。
…自分だけが、力になりたい…

身勝手な本音が、男の欲として溢れ出す。それは無我夢中の愛撫となってガルデンを追い上げていくのだが。
「あ…やあ…ッ…あああ!!」
びくびくと痙攣する姿にほとんど反射的に自身をつき入れる態勢に入る。ガルデンが気付く間もなく一気に突き進んだ。
「…ッ!!」
衝撃に耐えて歪む顔に口付けながら、繋ぐ身体に想いを馳せる。
この危なっかしい人物を、こんな風に未来永劫つなぎ止められればいいと思う。もっと包み隠さず言うなら、縛り付けておきたい。知らない世界に行かないように。勿論自分に。

これは、『欲』だ。
あまり優しい気持ちでないのがかなり後ろめたい。だが、だからこそ包み隠さず率直でありたいとも思う。
「お前は、大事な俺の仲間、だ…!」
想いと行動が噛み合ってないのは承知の上での叫びをガルデンが聞いていたかは定かではない。



朝。
ため息をつきながらアンダーシャツを着るガルデンは既に男に戻っていた。
(結局…好き放題やらせてしまった…)
不覚ではあるが自分で言い出したのだから仕方ないとは思っている。新たな弱点かと思われた『女の自分』で押し切れば追求を逃れられるかと思った読みが見事に間違ったわけだが、それは読み違えた自分が悪いのであってアデューに非は感じない。アデューが相手だとこうも調子が狂うのはどうしたことかとは思うのだが。
そのアデューは出すもの出してすっきり爽やかというのか、気持ちよさげにぐっすりだ。横目でそれを見やって、再度ため息をついた。
本音を言えば今すぐ立ち去りたいのだが、それはまずい予感がビシバシする。この状況で目をさましたアデューが自分の不在を認識したら猪突猛進で追いかけてくる気がする。そして目の前にいないモノを追いかけるとき、ヒトは無駄に想いを募らせる。本物の恋情に発展したら目も当てられない。
かといって、このまま顔を合わせるのも気まずい。
思わず天を仰ぐガルデンだった。



「うう…頭痛い…」
「…不可抗力だ。許せ。」
結局記憶操作で、『押し倒した際に反撃されて気絶した』ということにした。策謀でもない、しかも信頼おける人物に施すのは気が進まなかったのだが、背に腹は変えられないというのが実情だ。
「…で、何故ついてくるのだ」
そう、二人はギャロップで並んで闊歩していた。
「何でって言われてもな、お前が心配だからに決まってるじゃないか。」
「心配される謂れはない!」
「…色仕掛けしてる時点で心配なんだよ色々!!」
びきっと笑顔のままキレられるとガルデンも流石に沈黙する。苦虫を噛み潰した顔でいるのをどう解釈したのか、急に顔色を伺い始めた。
「お前にとってはどうってことはないんだろうけど、俺は嫌なんだよ。誰かと協力すればせめて最後の手段にできるんじゃないかと…」
ここまで言って、考える顔になる。
「…何でこんなに落ち着かないのかな…?」
「あ、あまり考えるな。そういう意味なら同行はありがたい…」

狼狽する胸のうちを悟られなかったかとヒヤヒヤしつつガルデンがそう言うと満面の笑みが帰ってきた。
どうやら気づかれなかったと胸を撫で下ろすつつ、厄介な潜在意識になってしまったものだと嘆息するのであった。


「酒を飲んでも以下省略」に続く。のかもしれない。