闇夜の月光





エルドギアに迎えられて、幾日か経っていた。
優れた医療機器のおかげで自身の身体のダメージは回復しているもののリューが完全に回復していないため、月心は動けない。
自分の無事だけでもアデュー達に伝えた方がいいのではないかとも思ったが、「酷いかもしれないし、賭けかもしれないが、仲間を失ったことをアデューには自分で乗り越えた方がよい」というホワイトドラゴンの言葉にー少々悩んだもののー頷いて今に至る。自分一人でも彼にはキツかろうに、グラチェスもヒッテルもカッツェも死んだ者としてここに運び込まれているのだから心配になるのも当然であろう。ちなみに彼らはまだ目覚めていない。

ともかく今出来る事は稽古くらいのものだ。そのための広い空間を求めて広間に出ると、月心にとって唯一の「先客」に出くわした。

・・・・・・・・・・・・

「ガルデン」
声をかけると胡乱な眼差しを向けられたが、すぐに視線を外される。
リューに乗った状態なら対峙したことがあるものの、生身で一対一で真正面から顔を合わせるのは初めてである。見覚えがあったとしてもおそらく「アデュー達の仲間の一人」位にしか認識されていないだろうという自覚はあるのでコホンと咳払いして改めて名乗る。
「拙者は月心と申す。リューサムライの乗り手として戦ったことがあるのだが」
「……」
返答はないものの、表情からすると得心してもらえたようでほっとする。
「お主、こんな所で何をしていたのだ?」

控えめに表現しても「ぼーっと座っていた」としか言い様のない状態だったので、立ち入ったことだと思いつつ尋ねてみる。
「別に、何もしていない」
面倒そうにそう呟く姿からは、かつての覇気はみじんも感じられない。思わずしげしげと眺めていると、心底嫌そうな目を向けられる。
「…随分と煩い奴だな」
「いや済まぬ。少々お主には興味があったのでな」
どういう意味だ、と表情が語っているのが面白い。警戒中の猫がこんな感じだなと失礼ながら考える。
「お主は謀略を巡らせてきた悪党だが、リューにも認められているし、アデューにも見込まれた。一見不条理にも見えるのだが、拙者にもその辺りに少々心当たりがあってだな」
一呼吸置いて言葉を続ける。
「拙者は今でこそ侍として生きるのに何の疑問も持っておらぬが、子供の頃は争いが嫌でな。その頃しか知らぬ者には随分拙者は『変わった』と思われるらしいのだ」
だが実際は何も変わっていない。ただ争いから逃げるだけでは結局大事なものが守れないと経験し、大事なものを守るためには力と、それ以上に心意気が重要になることを、侍としてごく自然に心得ただけだ。
侍の心得は大局を見て自分を捨てる事を求められる。時としてそれは非情であったり鬼であったりもする。大を生かすために小を殺す選択も普通にする。それでも、その選択をする自分の根幹は剣を嫌い争いから逃げた子供の自分と変わらない。寧ろ無駄な犠牲を避けたいという気持ちが、非情な選択も自らに許す感がある。

だから、どんなに乖離して見えようとも以前と今のガルデンにも、一本筋が通ったものがあるような気がしてならない。この男の子供時代などは想像するのが難しいのだが…

「…そういえば、お主は『ガルデン一族』だそうだが、お主の名前は一族内では普通なのか?」
何気ない質問だった。 よく考えれば立ち入りすぎの質問で、普段なら絶対にしなかったであろうが、「解明したい」という流れでごく自然に出てしまった。
ガルデンも「立ち入られた」ことで苦虫を噛み潰した顔だったが、聞かれた以上無視もできない類の質問であったらしい。
「…私の名前は一族の長という意味であって、それ以外の意味はない」
「何と?では別に名があると申すか」
「…勿論あるが、名乗る気はない」
親から貰った名であろうに、と言いかけて流石に立ち入りすぎたことに気が付く。自分の血筋をつい最近まで知らなかったことからもあまり普通の親子関係ではなかったことは想像できる。

「成程、長か。それは責任重大であろうな」
「…私以外には一族がいないがな」

相槌程度に言った言葉に反応があったので、少し驚く。その驚いた顔を少々誤解したのか、気分を害したように付け加えられた。

「長の血筋で唯一の生き残りなら、長を名乗ってもかまわんだろう!」
「いやそういうことは全然思っていなかったのだが…」

真面目に嫌な汗を体中にかいてしまっている月心である。思いのほかデリケートな問題に足を突っ込んでしまったことに本気で焦ってしまった。
ああも必死に言うとなると、普通に長の地位を継承したとは思えない。そしてそのことが若干後ろ暗いらしい。「生き残り」という言葉も気にかかる。

「!もしかして、お主が覇王を目指した理由は一族の再興が目的だったとか」
「!!!」
思わず閃いた考えを、これまた思わず大声で言ってしまった月心である。対するガルデンは、傍目にも気の毒な位に衝撃を受けていた。

何故といって、確かにそうだったのに、特に最近はほとんど忘れていたからである。おかげで子供だったからとかイドロの術のせいだとかそんな言い訳などどうにもならない強い自己嫌悪に苛まされていた。

思えばイドロは様々な計算違いを抱えながらも、実に大筋では目的を果たしていたといえるだろう。傷心の子供に一族の再興を誓わせて一心不乱に鍛えさせる。国盗りのために権謀術策を巡らせて闇や負の気に馴染ませ、同時にアースティア全体を混乱に陥れて出来ればリューを殲滅する…推測するにこんな所ではないかと今なら思える。

思いおこせば色々心当たりがあった。国々を混乱させるばかりでは国は盗れない、安易に操れる者はたかがしれているから政権が長持ちしない。だから自分が表に出るしかないのではないかとイドロに言ってみたことがある。対してイドロは一族の因縁の国であるパフリシアや、そのパフリシアより格下の国を取ってもあまり意味がない、今はその本番に対する予行だと思えばよいとー…今から思えば何故そんな子供騙しの口車に乗ったのかと頭を抱えたりもするのだがー当時はイドロを疑うという思考はなかったし、身につけた力を振うのに夢中だったという青さが爆発していたりで、結局納得してしまったのだった。
イドロが消えたことで自分の思考と行動が彼女によって都合よく誘導されていた事実にようやく気がついたわけだが、この心理ダメージは流石にキツかった。正直未だに引きずっていて、ガルデン本人は断じて認めたくないのだが「穴があったら入りたい」という気持ちに近い。

「…まさか、図星でござるか…?」
冷や汗をかきつつ強張った顔で聞かれて、『何故図星とわかるんだ!?』と1テンポ遅れた思考をしているガルデンである。この会話の半分は月心によるガルデンの表情の読み取りでなされていることに気が付いていない。
が、続く言葉はガルデンの予想外のものだった。


「…お主は随分と無私で生真面目な男なのだな!」


得心したと腕を組んで唸る月心を、かなり呆けた姿で見つめるガルデンである。

「…褒め言葉に聞こえてしまうのは気のせいかそれとも皮肉か」
「褒めたのではなく事実を言ったのだ!」

満面の笑顔で明朗快活に断言されてガルデンは少々後ずさる。そして思う。この男、何気にアデューに似ていないだろうか?と。
記憶違いでなければリューサムライもかなりコンテンパンにのした相手だった気がするが、その相手に何故にこうも真っ直ぐに向かって来れるのか…まだ悪党と罵られる方が気が楽なのは何故だろう。

こめかみを抑えて唸ってるガルデンの様子を気にするでもなく、月心はというとようやく到達した解答にすっきり晴れやかな気分になっていた。が、すぐに険しい顔に戻る。
何故といって、「無私で生真面目」に「一族の再興」のために働いた結果があの取り返しのつかない悪行の数々だとすると悲しいにも程があるからだ。
同時にアデューの言葉を思い出す。ガルデンはイドロに騙されていただけで、イドロにさえ会わなかったら自分達と一緒にいたかもしれなかったと。そのときは「騙されていた」で済む問題でもないしなあと困っただけだったが、こうして話しているとさもありなんと納得するところがある。
勿論無私であろうが生真面目であろうが、起こした悪行を受けた者には意味すらないわけだが。

「しかし教育とは恐ろしいものだな。身を穢してまで働いた結果がこれではお主も苦しかろう」
「…ものすごく妙な言い回しをするな!!!」
ぞわわと鳥肌を立てるガルデンの様子は月心には謎である。
「?まあそれはともかく、お主の今の状況は条件が同じであれば拙者も同じ道を歩んだかもしれぬと思わせるものがある。多分、アデューもそう思ったのであろうな」
「………」

どう転べばアデューやこの男が自分のようになるのかという疑問がありありと顔に浮かんでいる。ガルデンの経歴はざっと聞いただけでも特殊すぎるから無理もないのだが、それはガルデン本人にしかわからないことなので月心にそこを突っ込むつもりはさらさらない。
ただ「守ること」をうっかり忘れて力に溺れる可能性が自分にもあることを三日月丸の一件で思い知っている。多分目の前の男はその成れの果てだと思えるのだ。

「で、お主、これからどうするつもりだ?」
その質問に、まさにそれを考えている最中だったことをガルデンは思い出した。意趣返しや鬱憤晴らしだと言って邪竜族との決戦に向かってもよいのだが、流石に今となっては無理に悪ぶるのも気恥ずかしい。とはいえ勇者の仲間入りはどのツラ下げてという気分が捨てきれない。
要するに出るべき行動はわかっているのだが、どうにも踏ん切りがつかないという状態なのだ。
無言のガルデンのそんな思考まで読めたわけではない。が、迷っていることだけは明白で、困っている相手には手を差し伸べねばと考えるのが月心のサガである。

「…確かにお主の一族という『仲間』は絶えていなくなってしまったのかもしれない。だがリュー使いという名前の『仲間』であればまだ残っていると考えることはできぬか?一族のためにそれほど己を捨てられたお主なら、仲間のためにまた同じようにできそうなものだが」
「…つまり恥を捨てろということか?」
「言い方を変えればそうなるかな」

敢えて言い方を悪くしてみたことをあっけらかんと肯定されたのが却って清々しくて気に入ったガルデンである。何やら愉快な気分ですらあった。

「なかなか辛辣なことを言う。…が、その位が私にはちょうどよいか。」

不敵な笑みを作ると、久しく忘れていた覇気が蘇るのを感じる。
少々悪人面だがこの方がやはりしっくり来るなとしみじみする月心である。

「月心とやら、手合せを願おうか。鈍った身体に喝を入れるのには丁度よさそうだ」
「承知した」

そういえばここに来た目的は稽古だったなと思い出して破顔する月心だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

後日談。
「…それでやたらと爽やかだったのかアイツ…」
「恥がどうこうの前に切り替えよすぎでかっとびすぎだろ…」
この話を聞いた某二人の反応である。
特に「悪行」の被害者は妙に脱力してしまったとか。


ガルデンのキーワードは「真面目」、なのは聖騎士の約束でも描かれてますが、これに「無私」をつけると妙にプライドのない行動を平気でする姿に納得できたのでした。 あとガルデン一族=「暗黒魔法を司る」「魔法使い集団」だと思えば、魔法の強い地で覇権を取れば再興可能じゃないかなと思った次第。魔法の強い地は自分が治めるに相応しいとか言ってたし。まあガルデンの経歴は色々自分なりの設定作成です。←ここまで来ちゃったか(しみじみ)

ともあれず覇王になるという目標がオールイドロ洗脳ではやっぱり納得できなかったのでこういう「もともと自分の目標だった」という形に自分の中では落ち着いたのですが、同時に「すっかり忘れてた」という形になってしまったので却って余計に『ボケにも程がある』という印象になってしまったよ!でも自分的にはこれが一番しっくり来たんだ!!!(笑)ガルデンはもっと賢くて大人だという考えをお持ちの方大変申し訳ない。いやうちも無駄に長くて濃い人生経験の持ち主ではあるんですけど何か致命的に「無駄」だという…。にしてもよそ様と比べても格段に無駄すぎて、ぶっちゃけ描き終えて自分が脱力した。いやマジで。ラストのサルトビまんま私。

まあこの流れで行けば一族の滅亡はガルデンを得るためのイドロ主犯の計画的犯行ということになるわけで、その執着っぷりがまた美味しい(笑)。
にしてもガルデンは悪でも善でもノリノリすぎて本当に可笑しい(笑)世が世なら俳優として北島マヤ顔負けの存在感を誇ったろうと思わせる(え)。ということはイドロさん月影先生ですか。(違和感がない…!「あなたは女優になるのよ!」を女優→覇王に変えたらまんまだァァァァ!)

ともあれ月心とガルデンをお話させたいなーと思ったらこんな感じになりましたという話。しかし19歳と219歳だと思うと色々泣けてくる(爆)とりあえずうちのガルデンは相当な天然ボケ子ちゃんだなと諦めざるを得ませんでしたので今後その覚悟でお願いします。ちなみに月心は色んな意味で聖域です。なんかちょっと無神経に描いちゃってスマン月心。彼なら本質にズバっと切り込めそうだなと思ったのと、ガルデンに切り込むのが尋常な方法では無理だったという二重の事情だ。
あと挿絵↓はただのおちゃらけ。リアルタイム知らないのでありがちなネタだったらスイマセン。



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