【ここまでのあらすじ】
 邪竜族との戦いも、そしてカイオリスでの魔族との戦いも終わってから、数年後のこと。ガルデンは、アデューと二人で旅をしていた。
 その旅の途中、デルラという小さな国で、悪漢に襲われていた一人の女性を助けた。二人はその女性から、デルラ国王室の側室候補の女たちが行方不明になっているという話を聞く。その女性の妹もまた、側室候補として王宮に上がっていたのだが、一年ほど前から行方不明になっているというのだ。どうやらその裏には王妃がいるらしい。そこでアデューが、調査の為に自分が女装して王宮に潜入する、と言い出したのだが、ガルデンは反対した。成り行き上、ガルデンが魔法によって女に姿を変えて潜入することになってしまう。
 かくして、ガルデンは側室候補として、アデューは騎士見習いとして城内潜入に成功。しかし騎士見習いの立場では王宮の様子はわからず、気を揉むアデュー。そしてガルデンもまた、王妃の一味の手によりさらわれてしまう。だがガルデンをどうにか出来る人間などそういるものではない。アデューもまたガルデンが連れてさられた屋敷に駆けつけることが出来、二人で事件の収束にあたった。
 そして事件は無事解決したのだった。
 
 二人はデルラ国王と王妃から、迷惑をかけたお詫びにともてなしを受けた。その晩餐会が終わり、客室へと案内された。
 そのガルデンの方の部屋で今、二人はそれぞれ一人掛けのソファーに腰を落ち着けてくつろいでいる。明日には旅立つのだと考えながら、事件を振り返っていた。しかし話をする内に、アデューは、ガルデンの調子があまり良くなさそうなのに気付いた。
 
(詳しくは月岡晴実の【短編/デルラ国王妃の杞憂】をお読み下さいm(__)m 出来れば一章だけでもお読みいただくと、女ガルデンの色気(?(^^; )が掴めるのではないかと……。でもなぁ、うーん(−−) 全部読んだ方が、ガルデンのツンデレ感を感じやすい気がします(^^;;; )
 

 「……何だかお前、調子悪そうだな」
 アデューは立ち上がってガルデンに近付いた。
 「疲れただけだ」
 ガルデンはぶっきらぼうに答えた。
 「あ、そうか。その姿をしているのは疲れるんだったな」
 「少しな」
 ガルデンは、まだ女の姿だ。男に戻る為の魔法を使う暇もなかったのだが、王や王妃たち──特に王──に、実は男なのだと知られるのが面倒だったからだ。
 「そうか……。お前、いつ元に戻るんだ?」
 「そうだな。明日、城を出てからどこか人の通らぬ森の中ででもやろう」
 「それじゃあ、明日が見納めか……」
 アデューは、惜しむようにガルデンの顔をまじまじと見た。
 「何だ? そんなに見るな」
 ガルデンは、アデューの視線を避けるように横を向いた。
 「これが見納めとは限らんぞ。こうして探りを入れる必要が、今後もあるかもしれん」
 「女になって? それでまた、褥に入るのか?」
 「褥とは限らぬ。しかし、それが効率が良いのは確かだな。男も女も心に隙が出来やすい」
 途端にアデューは、顔を曇らせた。
 「それはやめてくれ」
 強い口調だ。ガルデンは少し驚いたようにアデューの顔を見た。
 「何故だ?」
 「嫌なんだ、お前が誰かに触れられるのが」
 「私が? 何故そのようなことを気にする」
 「何故って……嫌なものは嫌なんだ。お前だけに限らないよ。体を……餌にするわけじゃないか。体って、大事なもんだろ? 嫌な奴に触られたら嫌な気がするだろ? 男の体なんて、戦って、傷だらけになったって、そんなのかまやしないけど、女の体には傷を付けさせたくない」
 「戦うわけではないのだから傷など付くわけがあるまい。第一女の体で通常より非力だとて、私には魔法があるのだぞ」
 「そ、そうだけど! 例えが合ってないのはわかってるけど。とにかく俺は、お前がその体を売り物にするみたいな、そんなことはさせたくないんだ!」
 「馬鹿かお前は。この体は所詮紛い物。魔法で変化しているだけなのだぞ」
 「それでもだ! 何でか知らないけど、落ち着かない……イライラするんだ。今回は俺が言い出したことで、俺が悪かった。でももうやめてふ──」
 ふいにアデューの言葉が途切れた。口が塞がれ、喋れなかったからだ。
 アデューの唇に、ガルデンの唇が重なっている。
 ガルデンは、アデューが必死に言葉を選んでいる間にすっと立ち上がり、素早くその唇を奪っていた。ガルデンの両手が、軽くだがアデューの顎と後頭部に添えられている為、アデューは動けない。
 少ししてガルデンはアデューから口を離した。
 「やはりこうすると静かになるな」
 ガルデンは、ふっと笑った。アデューは、真っ赤になって口をぱくぱくさている。
 ガルデンは、アデューに背を向けた。窓の方へゆっくり歩き出す。
 「別にお前に言われんでもやたらにこういうことはせぬ。簡単な魔法ではないしな。しかし必要であり、それが最も有効であるなら話は別だ。お前の指図など受けぬ」
 「ダメだ」
 突然、アデューの腕が、ガルデンの胸の上方で交差される。いつの間にかアデューの体はガルデンの背中にあり、後ろから抱き締めていた。
 「なんのつもりだ」
 ガルデンは、硬い声で言った。
 「俺はお前のこと……」
 アデューは言いかけて、けれど途中で言葉を切った。
 「お前が私を? 何なのだ?」
 「俺は……俺は……そうだ、お前は」
 アデューは思いついたように言った。
 「夢、見させるんだろ?」
 「夢?」
 「前に言ってた。大臣とか国の偉い奴から情報を引き出す為とか、そいつを操る為とかに、女のかっこになってそいつに近付き、色仕掛けで手なずける……その時、ベッドに誘い込まれたら、そこで夢を見させて、いい思いをさせるんだって」
 「確かに言ったな」
 「お前、明日には男に戻っちまうんだろ?」
 「そのつもりだ」
 「だから、夢だ。今のこのお前自体が。明日には消えてしまう夢だ」
 アデューは、抱き締める腕に力を入れた。
 「離せアデュー」
 「嫌だ」
 「アデュー!」
 「お前が悪いんだぞ! ……キスなんかするから……」
 「アデュー……」
 ガルデンは驚いたように、首をアデューの方へと捻った。手を上げてアデューの頬に触れる。
 「少し、力を緩めてくれぬか」
 ガルデンの頼みに、アデューは力を緩めた。ガルデンはアデューの腕の中で体の向きも変える。正面に向かい合い、互いの顔を見つめる。
 「そうか、これは夢か」
 ガルデンは、囁くような微かな声で呟いた。
 「では愉しい夢にした方が良いな」
 そう言って目を瞑る。
 アデューの目の前に、ガルデンの顔がある。僅かにアデューの方が背丈がある為、その分だけガルデンの方が目の位置が低い。だがガルデンは少しだけ上向きに顔を傾けている為、唇はほぼ同じ高さにある。
 小さな口だ。唇はふっくらと柔らかそうだ。いや、つい先程のキスでわかっている。その柔らかい唇にもう一度触れたくて、アデューは自分の唇を近付けた。目を閉じ、顔をやや斜めに傾けて、ガルデンの唇に自分の唇を重ね……。
 「ぶはっ」
 アデューは突然叫んだ。
 みぞおちに痛みを感じたせいだ。
 アデューは打たれた胸を押さえると、目を開けてその痛みの原因を見た。
 ガルデンが右手に拳を作り、にやりと笑っている。
 「甘いな」
 「ひでぇ……」
 アデューは涙目だ。ガルデンは「ふん」と言って横を向くと、ベッドの上にぽんっと勢いを付けて座った。もてなされた晩餐会の為に用意され、仕方無く着込んだドレスの裾がめくれることなど気にしない。
 「お前から引き出す情報など無い。夢を見させる必要がどこにある?」
 「そういうことじゃねぇよ」
 「ではどういうことだ? 他に理由も無い」
 「俺にだって理由なんか無い。だから、そういうことじゃないんだよ!」
 「落ち着け。お前は頭に血が昇っているようだ」
 ガルデンは、冷ややかな目を向けた。アデューはみぞおちから手を離すと、ガルデンをじっと見る。
 「……俺のこと、嫌いか?」
 真っ直ぐな視線を受け、ガルデンはたじろいだように視線を反らした。
 「何を言い出すかと思えば」
 「ちゃんと答えてくれよ。俺は、ずっとお前のことが好きだ。……多分、あの時……あの海辺の洞窟で、お前を介抱した時から……」
 「な、何を馬鹿な!」
 「勘違いするなよ! 俺が好きなのは、人間としてのお前だ。男に懸想する趣味は無い!」
 「ああ……」
 ガルデンは、ホッとしたような、残念なような、曖昧な顔をした。
 「だがあの洞窟では、私はただお前に傷の手当てを受けただけだ。私はお前の問いに、まともに答えられなかった。どこに好意など発生する要因があると言うのだ」
 「わからないよ、俺にも。でもなんだか……お前は、イドロに騙されていたって気付いて、迷う感じだった。それまで俺は、お前のこと、冷酷な奴だ、極悪非道の悪者だ、ってそう思ってた。だけどそうじゃなかった! イドロにやらされてたんだ。目的を失ったお前は、何だか小さく見えた……」
 「同情か」
 「違う! そうじゃないんだ! ……何だかよくわからないけど、このままじゃいけないって思った。放っておいたらいけない。……あぁそうだ、ホワイトドラゴンの背から俺、腕を伸ばしただろ? 届くわけないのに。俺、後から自分でバカだなぁって思ったけど、あの時お前は、俺の伸ばした腕に応えようとしてくれたじゃないか」
 「何のことだかわからぬな」
 「誤魔化すなよ。俺は、お前の手が動くのを見たんだ。……それから時々思ってた。どうして俺は、あの時無理矢理にでも連れて行かなかったんだろう、って」
 「わからぬ。何故そんなふうに思えたのだ?」
 「だから、よくわからないって言ってるじゃないか」
 困り顔のアデューに、ガルデンは呆れたように溜め息をついた。
 「本当に変な奴だな」
 「嫌か? こんな変な奴」
 アデューは再び真顔になった。
 「何故今更そのようなことを聞く」
 「どうしてかな。……女の姿をしているせいかも」
 「女の姿だから?」
 「うーん……いつもは冷たい顔されても、それがガルデンのクールなスタイルだからって思えるんだけど、女の顔で冷たくされると、なんだか凹むんだよなぁ。もしかして元々嫌われていたんじゃないか、って」
 「馬鹿なことを。嫌ならば共に旅などせぬ」
 「そっか! 良かった!」
 アデューはぱぁっと顔を輝かせた。困り顔から急激に変わったその嬉しそうな顔に、ガルデンは呆気にとられたように数回瞬いた。
 アデューは更に問いかける。
 「じゃあさ、俺のこと、好きか?」
 「何……?」
 ガルデンは、あっけらかんとした様子のアデューに、一瞬言葉を失った。
 「……たった今、嫌ではないと言ったであろう」
 「うん、それは分かった。だから俺は、好きかって訊いているんだ」
 「嫌ではない、では駄目なのか?」
 「嫌ではない、と、好き、は違うものだろ?」
 アデューは少し口を尖らせた。
 「そうか? ……そうだな」
 ガルデンは、考えるように目を閉じた。
 「それはお前にとって重要なことなのか?」
 「重要? うーん……いや、好きだと思われてたら嬉しいなって思う。でも、いいや」
 アデューはそう言いながら、ガルデンの隣にストンと腰を下ろした。そして言葉を続ける。
 「俺がお前のことを好きだと思ってるってことを、お前が知っていてくれれば、それでいい」
 「アデュー……」
 ガルデンは目を開けると、隣に座るアデューの横顔を見た。
 「そうだ。ガルデンが俺を好きじゃなくても、俺がお前のことを好きなことに変わりはない」
 「アデュー、私は……」
 「うん?」
 アデューはガルデンの方へ顔を向けた。二人の顔が、見つめ合う状態になる。
 「私はお前を、好きではないわけではないぞ」
 ガルデンの頬に、うっすらと赤みが差す。
 「好きではないわけではないってことは……つまり、好きってことだな?」
 「好きではないわけではないは、好きではないわけではない、だ」
 ガルデンの頬の赤みがだんだん広がっていく。
 「だから、好きなんだろう?」
 「そうは言っていない!」
 「嫌いじゃなくて、好きじゃないわけではないってことは、要は好きってことでいいんじゃないか?」
 「勝手に要約するな!」
 「なら、お前が自分で要約してくれよ」
 「私が?」
 「ああ、お前が」
 「私は……」
 ガルデンは、突然声が出なくなったように口をぱくぱくさせた。
 「え?」
 「……どうして私がそんなことを言わねばならぬ!?」
 次いで、急に怒り出す。
 「そんなことって?」
 「そんなこととは、そんなことだ!」
 「つまり、好きってことだな?」
 「そんなに言わせたいのか?」
 「何を?」
 「私がお前を好きだということをだ!」
 「好きなのか?」
 「す……きだぞ」
 「いつから?」
 「知らん!」
 「どこが?」
 「どこかがだ!」
 「いつからでどこがなのかわからないけれど、好きなんだな?」
 「そうだ!」
 「誰を?」
 「お前をだ! いい加減にしろ!」
 「ガルデン、お前、顔が真っ赤だぜ」
 アデューは突如吹き出すと、そのまま笑い出した。
 「何?」
 ガルデンは両手で顔を押さえた。笑うアデューを睨む。
 「貴様、私をからかったのか?」
 「違う! 違うよガルデン! いや、ちょっとそうだけど、や、そうじゃなくて……」
 アデューはまだ笑っている。
 「では何だ? どういうつもりだ!?」
 「だってお前、すげ〜可愛い!!」
 「何?」
 「俺、もう我慢出来ない!」
 アデューは突然笑いやめるとガルデンに飛び付いた。両肩を押されたガルデンは、たわいもなくベッドに倒れた。その驚きに目を見開いたガルデンの唇に、アデューが唇を重ねる。
 ガルデンは抵抗しようとして、肩にあるアデューの手を掴んだ。だが逆にアデューにその手を掴まれてしまう。
 それからアデューは、顔を離し体を起こした。
 「ごめん。お前は夢を見させるだけで、実際には何もしないんだよな。こんなことされたら、嫌だよな……」
 アデューの声は、微笑んでいるのに寂しげだ。
 アデューは、手の力を抜いた。そしてガルデンの手から離そうとする。だが。
 「……違う」
 ガルデンは小さな声で言うと、離れていこうとするアデューの手を握った。
 「分からぬ」
 ガルデンの顔はまだほんのり赤い。その顔を斜め横にし、アデューとは視線を合わさない。
 「ガルデン? ……分からない、って?」
 「これだけでは嫌かどうか分からぬと言っているのだ」
 ガルデンはまだ怒っているように言うと、真上に顔を向け、アデューの顔をしっかり見た。それから目を閉じると、静かに待つ。
 アデューは戸惑いながら訊いた。
 「いいのか?」
 「早くしろ」
 ガルデンに促され、アデューは再び唇を重ねた。握った手は、お互いの手のひらをしっかりと合わせ、指を絡ませる。
 そのまま……二人は互いの唇を吸い、貪った。
 少ししてアデューが顔を上げる。
 「ぁ……」
 ガルデンは喘ぎ、吐息をついた。ぽーっとした目は焦点が合っておらず、夢見心地のようだ。
 「何だ……この感じは」
 「大丈夫か?」
 訊ねたアデューの方も、心ここにあらずという顔をしている。
 「体の内側から溢れてくるような……体の中が熱い……」
 「体の中が……?」
 「こんな感覚は初めてだ……」
 「そうなのか?」
 アデューはガルデンの言葉に応えてはいるが、しかし上の空だ。
 「なぁ、ガルデン……」
 「何だ……?」
 「あのさぁ、ダメ……かな?」
 「何がだ?」
 「その、だから……」
 アデューは視線をガルデンの顔から胸へ、胸から腹部の下へと移動させた。
 「ば、馬鹿か!?」
 ガルデンはアデューの言いたいことを理解し、叫んだ。と同時にバッと起き上がる。
 「そ、そうだよな。馬鹿だよな。あはは……」
 アデューはガルデンのその勢いにたじろぎ、ひきつったような笑い声を上げた。次いでがっかりしたように溜め息をつく。ガルデンはそれを見て慌てて言った。
 「こ、この馬鹿者が。誰が駄目だと言った」
 「え? じゃあ、いいのか?」
 「何? 良いとは言っておらぬぞ!」
 「え……」
 アデューは困って苦笑した。
 「そうだよな。さすがに無理だよな。……なら、ちょっとだけ」
 アデューは手を伸ばすと、ガルデンの前から背中へと回した。ガルデンの、女になったせいでいつもより小さくなっている体を、自分の胸の中へとしっかり抱きこむ。
 「……あ、アデュー……何をする」
 ガルデンは声をうわずらせた。
 「や、やめろ」
 声の調子は弱い。
 アデューは腕の力を弱め、ガルデンの体を離した。ガルデンはのぼせたような顔をし、はぁはぁと息を吐いた。
 「ごめんな」
 アデューは心底悪かったように謝った。
 「もうしない」
 「いや、待て。その、アデュー」
 ガルデンは必死に考えるように言った。
 「あれは、良くはないが、しかしそうだな。今後の研究の為に構わぬぞ」
 「研究?」
 「そうだ研究だ。男が女の何に弱いのかを調べる。いや、逆か、女の体は男に何をされるとどう反応するのか。いやそうは言っても私は何かされたいわけではないぞ」
 「何の話だ?」
 「だから……お前が先程したいと言ったであろう? わからぬのか、馬鹿めが!」
 「え? あぁ……無理するなよ」
 アデューはガルデンに微笑んだ。ガルデンはその笑みに一瞬息を飲むと、ムッとした顔でそっぽを向いた。
 「別にそれしきのこと、無理なことなどない。好きにしろ。所詮これは作り物の体なのだ。本物の女とは違う。何をしたところで何も減るものではないし、貞節を気にする必要など無いのだからな。だがお前も、こんな体を抱いたところで満足なぞ出来まい」
 「そんなことないよ。だって、中身はガルデンじゃないか」
 アデューの笑みが、嬉しげな明るい笑みに変わる。それを横目で見ていたガルデンの頬が、また赤くなる。
 「ば、馬鹿な奴だ!」
 「何回バカって言うんだよ」
 アデューは笑いながらも少し口を尖らせた。そして手を伸ばし、ガルデンの頬に触れる。ガルデンは、ビクッとしてアデューに正面を向けた。アデューはその頬から首へと手を優しく下ろしていき、そっと首筋をなぜる。
 「……」
 ガルデンは目を細め、声にならない声を上げた。その自分の無意識にとってしまった行動に、ガルデンは更に顔を赤らめると、アデューの手を払った。
 「馬鹿! 触るな! お前に触られると力が抜けるではないか!」
 そう言うなりくるりと背中を向け、両手で髪をかきあげる。
 「外せ!」
 「あ、ああ」
 アデューはガルデンのドレスのファスナーを下ろした。華奢な背中が露になる。ガルデンは袖から腕を抜くと、ベッドの上で立ち上がってドレスを足元へ落とした。そこから足を抜くと、ベッドの横にある椅子の背に投げる。そしてアデューに背を向けたままその場にペタンと座り込むと、胸回りの下着をさっと外した。
 アデューはゴクリと唾を飲み込むと、その背中から前へと腕を伸ばし、抱きしめた。
 「ガルデン……」
 「アデュー?」
 アデューは、ガルデンの胸の前で交差させた手をすぅっと動かし、ガルデンの胸を這わせ乳房に触れた。
 「ん、あぁっ」
 ガルデンは声を漏らした。
 「こ、この……」
 ガルデンはアデューの手を掴むと振り向き、アデューを睨んだ。
 「いいからお前も早く脱げ!」
 「あぁ、うん」
 アデューはガルデンの体から手を離すと、ドギマギしながら服を脱ぎ出した。だが途中まで脱いだところでふいに手を止める。
 「本当なんだな? さっきみたいのは御免だぜ」
 アデューは、真剣な顔でガルデンを見ると念押しした。
 “さっき”と言うのは、キスをしようとしてみぞおちを殴られたことだ。今度は下の急所を狙われかねない、と思ったのだ。
 「さあな」
 ガルデンは、ふん、と笑った。
 「どうしてやろうか」
 「え? なんだか不穏なんだけど……ガルデン?」
 「何をされるかわからぬというのは、ドキドキして面白いのではないか?」
 「いや、そういうドキドキは、俺はいらないかな」
 アデューはあははと笑った。するとガルデンは、いきなりアデューの顔を両手で挟み込み、また唇を押し合わせた。
 舌を差し込む。何度も何度も唇を吸い、舌を絡ませ合う。熱い熱い口付けを繰返し、甘い吐息を上げる……。
 しばらくしてガルデンは、アデューの口から自分の口を離した。とろんとした目でアデューを見る。
 「不思議な感覚だ」
 「え?」
 アデューもまた、キスの心地好さから覚めぬ顔でガルデンを見る。
 「女の体の反応だ」
 「ああ」
 「……熱い。心の奥底が震える。……あぁ、おかしくなりそうだ」
 ガルデンはふいに、苦し気に自分の胸をかきいだいた。
 「ガルデン……」
 「アデュー……私にこんなことをして、ただで済むとは思っていまいな」
 「な、何言ってんだよ。今のは、お前の方からキスしてきたんじゃないか」
 アデューは慌てた。
 「うるさい! 私にこんな……こんな思いをさせて……このままでは済まさぬ!」
 ガルデンはいきなりアデューの体を引っ張ると、ベッドの上で仰向けに押し倒した。そしてその上に馬乗りになる。
 「許さない……後悔させてやるからな!」
 「うわっ、タンマ!」
 「黙れ!」
 怒鳴り付けると上半身を前に倒し、アデューの体の上に自分の胸を添わせた。
 「……忘れられない夜になる」
 ガルデンは囁き、またそっと口付けをした。今度はすぐに離し、目を細めて愛しげにアデューを見る。
 「ガ、ガルデン」
 アデューは、喘ぐように声を絞り出した。
 「何だ?」
 「俺は……お前のことが、好きだ」
 「ああ」
 ガルデンは、優しげな笑みを浮かべた。
 「それならもう聞いた。……私もだ」
 アデューはほっとしたように笑い、それからガルデンの背中に手を回した。
 「アデュー」
 「うん?」
 ガルデンは、アデューの頬に触れた。そして囁く。
 「これは、夢だ。……私だけの夢だ」
 
 
 カーテンの隙間から朝陽が射し込み、閉じたまぶたの裏で煌めく。
 アデューは眩しさに薄目を開け、手探りで布団を探すと、ぐいと引っ張り頭までスッポリ潜った。
 自分のその動作で体が目覚め、次いで劇的な何かを思い出して、アデューはガバッと身を起こした。
 だが──何を思い出したのか覚えていない。
 「あれ? 何だ??」
 頭を抱えて思い出そうとするが、そんな動作をしたところで思い出せるものではない。
 アデューは、思い出せるような要因を見付けようと、きょろきょろと部屋の中を見回した。昨日案内された王宮の客室は広く、ベッドは一つで、部屋の中には自分しかいない。
 どうも何だか妙だ。ぐっすり眠ったはずなのに、疲れが取れていない気がする。けれど気分は良い。とてもすっきりしている。
 アデューはベッドから出ると、軽く身支度をした。部屋を出ると廊下には見張りの兵がおり、敬礼をされる。アデューは「おはよう」と言うと隣の部屋の前へ行き、コンコンと扉を叩いた。「何だ」という声に「俺だよ」と答えると、「入れ」と返事がある。
 その部屋に入ると、女の姿のままのガルデンがいた。既に貸し与えられた寝巻から自前の服に着替えた後で、ぴっちりしたシャツとズボンを着用している。体の線がよく出ていて、色もデザインも地味なのに色っぽく、アデューはドキリとした。
 「おはよう」
 「ああ」
 アデューが挨拶をすると、ガルデンはいつものように鷹揚に返事をした。アデューはそこで、ガルデンの髪が濡れているようなのに気付いた。
 「あれ? 髪、濡れてないか?」
 「ああ。まだ乾ききっていないようだ。……湯を借りた」
 「風呂に入ったのか?」
 「そうだ」
 アデューは「ふーん」と頷き、それから自分が何しに来たかを思い出した。
 「あのさぁ、昨夜、なんかなかったか?」
 我ながら間抜けな質問だと思いながらアデューは訊いた。ところがガルデンは、一瞬アデューの顔を窺うように目を向け、それからそっぽを向いて答えた。
 「知らんな」
 次いで、ふふっと笑う。
 「何だ? 何かおかしいことがあったのか? ……お前、何か知ってるだろう?」
 「知らん」
 ガルデンは笑うのをやめた。そこに扉を叩く音がし、女官のものらしい声がかかる。
 「お食事のご用意が出来てございます」
 アデューは言われて、自分のお腹を押さえた。
 「そういやすげー腹が減ってる。行こうぜ、ガルデン」
 アデューはガルデンに向かってにっこり笑った。朝のもやもやを忘れ、頭の中はすっかり朝食のことでいっぱいになってしまったらしい。
 ガルデンは呆れたように微かに笑ったが、「早く」とアデューに促され、部屋を出た。女官の案内で食堂へ向かう。
 廊下を歩きながら、窓から外を見た。いくつか雲が浮かんでいるようだが青空が見え、今日の旅も快適になりそうだと思えた。
 ガルデンは、密かに、「このまましばらく女でも良いか」と考え、それから首を横に振った。アデューはそれには気付かなかったようで、ガルデンが見ていたのと同じ空を見て言った。
 「今日も旅日和になりそうだな!」

(土方コメント)
えっと、まずは「是非幻想世界様へ飛んで全編読んできてください」と。
実に男らしく、偉そうにふんぞり返り、そしてそれが何故か可愛らしいツンデレおんにゃのこ満載です!でもまったくもっていつものガルデンだと思います!(笑)

この幕間がまた、可愛らしさ爆発ですな!みぞおちパンチとか!(え、そこ?)研究という言い訳とか!押せば引き、引けば押す掛け合いとか, 上に乗っかる所とか!!
中身がこれならおさわりするだけで十分楽しいぞ!激しく同意だアデュー!とか、主にアデューに乗り移って握りこぶしでした(笑)
あんまり楽しかったので、お絵かきタイムに絵かきかきしてます。下に置いておきますが、多分増えます(笑)

ありがとうございました!


脚長すぎたか(笑)とりあえず全身!ドレス!という趣旨の絵。ドレスはアデュー色ということで(笑)


女官服でミストロット持ってドヤ顔。ミストロットが胸の谷間じゃないのはそれはパッフィーの専売特許!ということで。

あと他には後ろから抱きとか、見つめ合いとか、口封じとか乳もみもみとか(!)描きたい。

リュートップ
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