たとえばこんな時代劇





「ふう、この国ではどんな騒動が巻き起こるのでしょうかなあ〜」
「…既にもう騒動を期待してるのかご隠居…」

のっけから不穏な発言の主にげんなりする御伴のサルさんことサルトビは盛大にため息をついた。「気楽に旅をしていたら騒動が起こり結果的に世直し」のスタンスだった筈だが、どんどん騒動のウェイトが増していくのと比例して世直し要素が薄くなっていくのは気のせいでもないのかとこめかみを押さえていると、パッフィーが顔を出す。

「アデューは今よく寝てますわ」
「のびた、の間違いだろ…」

もう一人の御伴のアーさんことアデューは、つい最近の追加要素により、宿についた途端に倒れるのが常となっている。
その追加要素が見当たらないことに、ふと不安を覚えた。

「おい、…ガルデンはどうした」
「団子の材料を調達しに行きましたぞ」
「パッフィーがここにいるということは…まさか一人でかっ!?」
「いえ、ハグハグと一緒ですわ」
「尚悪いわっ!」

追加要素とは先日知り合った茶店の店主である。名をガルデンという。
10本1両という信じられない値段の団子を売っていた恐るべき世間知らずにうっかり説教してしまったのがどう間違ったのか、世間勉強と称してついてきてしまった。茶店を即座に屋台に変えてしまったのは驚嘆に値するが(ちなみにそれを引くのはアデューである)、何か色々職業選択を誤ってる雰囲気がある。
確かに団子や茶は極上の味を誇るのだが、店主の性格は傲岸不遜というか尊大というか、とても客商売を自認してるとは思えない。 しかし眉目秀麗な上、かなりの天然ボケなので…何というか、うっかりときめいたりもする要素もかなりある。破格の値段で団子を売りながら繁盛していた所以である。実際、茶店を引き払うのは結構な騒動だった。夕日の中涙ながらにガルデンを見送る常連客の風景は感動的なのかギャグなのか彼らを心配すればいいのかわからなかったものだ…。

と、そこまで回想して我に返る。

「あの二人組を放逐したらとんでもねーことになるに決まってるだろーが!」
「いや、それを期待しているのだが」

このクソジジィー!!!!!と心で絶叫しつつ、サルトビは飛び出した。

・・・・・・・・・・

「…この上新粉はもう少し安くならないか。」
「おいおい、馬鹿言っちゃいけねえよ。そいつは高級品だしこっちも商売なんだからよ」
「しかし普通はもっと安いだろう。これでは売値に響く」
「あんた業者か?悪いが卸価格は取引量が約束されてないと無理ってもんだぜ。自分の馴染で買いなよ」
「そうしたいのは山々だが、旅の屋台では行く先々で買うしかない」
それはそれでその土地ならではの品が手に入ったりするので楽しいのだが。

「そりゃ珍しいな…」
冷やかしかと思いきや、それなりに事情があるとわかって思わずしげしげと観察してしまう。
眉をしかめながら粉や豆を検分しているのだが、あまりに真剣で何故か微笑ましい。緑の小動物と会話してたりするのがまた妙に可愛いし、考え込んだり途方にくれたりする表情にうっかり色気を感じたりもする。
「や、まあ、ちょっと考えなくもないが…」
「本当か」
ぱっと上げた顔は一瞬とはいえ喜色満面で、小売店主は思わず固まってしまった。思わず喉がごくりと鳴る。
「…その、ちょっと今から食事にでも付き合ってくれたら…よい鰻屋があって…」
「ちょっと待てえええええい!!!!!」

ぜーはーぜーはー息を吐きながら乱入してきたサルトビに、店主はもちろんガルデンも吃驚する。
「い、いや私はや、やましいことは、その」
狼狽える店主を一瞥して、サルトビはやれやれと首を振る。
「珍しく善人だったか…でもその方が引っ掛かると厄介かもな…」
店主には訳がわからなかったろうが、ぶっちゃけこのパターンでガルデンはよく悪徳業者に引っかかる。引っかかるというより天然に引っかけて、なし崩しに悪代官まで到達してチャンバラになる。
業者をやり過ごすと、チンピラにナンパされた挙句、賭場で大暴れになったりする。
ナンパもやり過ごすと、今度はハグハグが食い逃げをやらかして尻拭いに走るパターンに落ちる。尻拭い役がガルデンだと大体問題が拡大する。
…つまりこの二人がタッグになると、相当の確率で騒動が起きる。

「小売価格でいいから必要量とっとと買え!」
妙な迫力に、ガルデンはとりあえず頷いた。

・・・・・・・・

「価格の適正化に努めろと言ったのは貴様だろう。何故邪魔をする」
仏頂面でそう言うとサルトビはまたげんなりする。騒動を起こしている自覚がまったくないのもガルデンの特徴だ。
二人とも材料を両手で抱えているので、あまりオーバーアクションはできない。

「…鰻屋で飯食うって意味深なナンパだってわかってるのか?」
「何の話だ」
ああやっぱりわかってない。がくーと項垂れるサルトビを見遣るガルデンの視線が色んな意味で痛い。往来で逐一説明するわけにもいかず、話題を元に戻す。

「値段に関しちゃ小売から換算した値段でもお前の元の値段に比べりゃどうってことねえし、味は極上なんだから文句も出ないと思うぜ」
あさっての方向を見ながら、不機嫌な声でそう言う。店主の接待代と思えば寧ろ安いなどという評判は死んでも自分から伝えたくない。
「しかし売れ残りが出るのは困る」
「たいして出ないだろ」
大体完売するじゃねえか、と言うとガルデンは呆れ顔だ。
「最初はあまり売れないだろうが。」
…確かに『見慣れぬ屋台で、普通より割高の値段』ということで、初日からしばらくはあまり売れない。
「完璧主義ってやつか?」
「私は私の作った団子を捨てるのが嫌なだけだ!」
…どんだけ団子を愛してるんだと突っ込みを入れるのもちょっと疲れる。

「日によって値段を上げ下げするわけにもいかんしな」
「言っておくが原価割れだけはやるんじゃねーぞ。あれは最初は気にならなくてもあとからじわじわ負担になるからな」
「元よりやる気はないが、意外だな。お前は安く売ればいいのかと思っていた」
「いい安売りと悪い安売りは区別してんだよ」

けっ、とでも言うような口調にガルデンもむっと来なくもないが、安売り一辺倒主義ではないという事実はちょっと嬉しかったりもする。

「それにだ、売れ残っても俺らが食べてるから無駄になったことはないだろが」
「確かに今までは無駄になってないが、お前たちが食べ切れる量を超えることもあるかもしれないだろう」

「んなことねーよ。お前の団子だったらずっと三食のメシにしたっていい位だ」
美味いのは間違いないもんなあーとぼけっと言ったら、ガルデンが怪訝な顔で凝視している。
何か変な事言ったかなーとのんびり考えてはたとある考えに思い至る。

…聞き方によってはプロポーズに聞こえなくもなかったか!?

いやいやいやちょっとまてそんなつもりは毛頭ないんだと汗だらだらで固まるのだが口がぱくぱくするだけで言葉にならない。
「…サルトビ、お前」
いやだから違うんだっつーのとくってかかろうとしてー

「そんなに団子が好きだったとは知らなかったが、甘味を飯にするのは栄養的に感心せんぞ」

思わずつんのめって、荷物をかばって後ろにひっくり返ったサルトビである。
くぉんの団子馬鹿がああああと許されるなら叫びたかった。

「仕事が同じだと似てくるのか?アデューも同じことを言って同じようにひっくり返ったが」
起き上がろうとしてまた一気に脱力する。
一向に起き上がらない(起き上がれない)サルトビを尻目に、ガルデンはふむと考え込んでいる。そして自分の持っていた荷物をどんと置き。
「悪いがこれも運んでくれ。」

「…大丈夫かハグー…」
「大丈夫に見えるかー…?」

仰向けに寝転んだままそう答えつつ、すたすたと立ち去る足音を聞きつつ、こんなに持てるわけないだろうがと心で突っ込み続けていたサルトビだった…。

・・・・・・・・・・

「で、これが試作品ですの?」
「うむ、野菜を練りこんでみたのだが」

成程あの後野菜を買いに行ったのかと納得しながら遠くから見ている男衆である。(いや、ガルデンも男だが)

「発想はいいと思いますわ。栄養ありそうですし、色もつきますし…ただ入れすぎるとやっぱり食べにくいですわね。風味程度にした方がよいかと思いますが」
「うーむ甘味のある根菜の方が無難か…とはいえ食事代わりにできるようにするとなるとやはり菜ものは外せんが」

御伴が二人とも茶をぶうと吹くのをご隠居は不思議そうに見ている。

「それよりガルデン、なかなかよい茶葉が手に入りましたのよ?」
「おお、そう言えば茶についてはまだ物色していなかった。どんな物だ?」
うきうきと茶葉について語りあう世界には、他の者は入れない。アデューもサルトビもご隠居も美味しいものとそうでないものは解るが、語るとなると熱意が足りないのだ。その点パッフィーは茶道にも通じたちょっとした茶マニアだ。

「…アイツ、実はいいとこの出なのかね…」
ぼそっと独り言で呟いてみる。茶の味の良しあしなど、一朝一夕にわかるものでもないからだ。

「グラチェスさんもお茶には詳しいんですよ。珍しい種類を知っていらっしゃるようですから今度色々聞き出してみましょうね」
「本当か!…しかし何故あいつはいつも一緒にいないのだ?」
「さあ…趣味としか聞いてませんけれど…」

そんな感じで綺麗どころがきゃぴきゃぴ歓談しているのは大変和やかだ。和やかなのだがしかし…

「色々前途多難だなオイ」
「…お前もそう思う?」

明日はどんな騒動が起こるのか、それを考えると頭の痛い御伴二人なのだった。


サルさんメインになったのはアーさんだと悩まないで裏まで突っ走りそうだったから。しかしおかげでアデューとサルトビとパッフィーが均等に絡むという何この俺様パラダーイス!な状態に(笑)どーでもいいけど自分が描くとサルトビ苦労性すぎてちょっと気の毒にすらなってくる…
鰻屋→現代でいうラブホな役割。正確には元禄時代だった気がするけど気にしない!
ちなみに常連客のイメージは漫画版ガルデン一族の皆さん(笑)イっちゃったダークロードにブラボー叫んでる皆さん。

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